今日は久しぶりに親子揃っての休日だ。娘と共に町に下りてみることにした。

娘は何か見たいものがあるようで、数日前から楽しみにしていたようだ。

目の前を小走りにちょこちょこと行く娘に急かされる。

獣道に近い森の小道から町の近くの草むらに出て、人が通った跡を消しておく。

あの研究所に所属するものなら誰しもしていることだ。

人が来ないうちにささっと済ませると娘に手を引かれて町に入った。

 

娘の後を着いていくと人通りの多い大通りから路地裏の奥の方へと入っていく。

ふと、娘の足が止まる。周りにあるのは古ぼけた一軒の家の裏口だ。

周りを見回した後、躊躇せず、娘はそのドアを開ける。

その中に広がるのは籠に入れられた二つの頭を持つヤルキモノや

チョンチーの触角の先のライトがホルマリンに浮くガラスの容器等の

いかにも怪しい品々がただでさえ狭く暗い部屋に所狭しと並べられているのだ。

そう。ここは研究所の者だけが知る裏の薬品材料を売る店だ。

 

しかし、娘が何故ここを知っているのかと不思議に思う。

ここは私が入所して間もない頃、自分で材料を調達しなければならない頃によく来ていた。

しかし、私の娘でセンスがずば抜けているということで、下働きは無かったはずだ。

聞くと、新入りの研究員がここの様子を話したらしい。

 

店の奥へ行くと酷く小さく、人間と思えぬほど醜く年をとった老人が現れた。

私が昔来ていた時も同じ様子でここにいた、妖怪の様な店主だ。

私のことを覚えていてくれたらしく、濁った目で嬉しそうに私を見つめ、娘へと目を移す。

娘は物怖じせずに挨拶するが、軽く頷かれただけであった。

無口なところも相変わらず、店の奥へと手招きされる。

その背中を懐かしく眺めながら奥へと入っていった。

 

奥には少し広くなった空間に裸電球が一つだけの薄汚れた空間だ。

店主が何か合図を送ると陰の中からヨノワールが大きなスライサーを担いで出てきた。

そのスライサーはポケモン通販という通販番組で発売され、

番組中に問題が起きて結局発売されなかったという代物だ。

それが原因でポケモン通販は深夜帯の裏番組に移行したらしい。

 

ヨノワールは脇にあった壷の中からアーボックを掴み出すと

巻きつこうとするアーボックを無理やり引き伸ばしてスライサーに尻尾を当てた。

ざりっと言う音と共に尻尾の先端が薄く細く千切りにされた無残な姿で現れた。

前後に尻尾を動かすと千切りになったアーボックの肉が下の受け皿の上に落ちる。

ぶしゅぅと血が噴出し、刃は血脂でべたべたになるが切れ味は少しも落ちず、

アーボックの叫び声を無視したヨノワールは一定のリズムで手を動かしていく。

アーボックは何度も巻きつこうとするが、透けてしまって無駄な足掻きに終わり、

次々と肉がべちゃっべちゃっと皿に積み重なっていく。

ぐぎゅっと言う音がして肉の中に白いものが交じり始めた。

骨が切れだしたのだ。何でも切れるというキャッチコピーに恥じない切れ味だ。

涙を流し、噛み付こうとするがやはり透けてしまう。

胴体の真ん中辺りまで来たところでぐおおぉぉぉ…という叫び声と共に絶命した。

ヨノワールは何も感じないのか、ただ淡々と千切りを続けていた。

徐々にぶちゅっぐちゃぁという音がしてピンク色の内臓が。

鮮やかな顔のような模様が描かれた部分が赤一色に染まって。

眼球や脳などの頭の部分が。どんどん下の皿へと落ちて積もっていった。

 

指を切る心配の無いヨノワールは最後の最後まで千切りを続けた後、

血脂で真っ赤に染まったスライサーを持って再び影の中へと消えていった。

少しして戻ってくるとその手には大きな布、すりこぎ、すり鉢が握られていた。

皿の上の千切りになった肉を無造作に鉢の中に放り込むと

ぐしゃぐしゃと擂り潰していった。

完全にすり身になると、布に包んで思いっきり握りつぶして

血や体液などの水分をほとんど搾り出す。

残った搾りかすを布に包んだままこちらへ差し出す。

これを乾かして粉末状にすると金持ちのスポンサーたちが欲しがる精力剤の元となるのだ。

 

ここの材料屋は活きの良いモノを目の前で材料にしてくれるのだ。

娘はこれが見たかったらしく、目を輝かせて眺めていて、

その横では店主が唯一あげる声、甲高く気味の悪い笑い声を響かせていた。