綾音は今日も父親の病院の中を探検していた。
綾音の父親はこのポケモン病院―――ポケモンセンターでは助からないような
重大な病気や大怪我を治すところ―――の院長をしている。
ちなみに母親は副院長だ。(二人とも両親は金持ちだったのだろう…)
両親ともども娘には甘く、病院の中は綾音の格好の遊び場と化していた。
今日は綾音の世話担当となってしまっている看護師が
偶然にも風邪を引いて休んでいた。
「今日はお姉さんがいないけどお利口にしている!綾音がんばるっ!」
心配する両親の制止を振り切りいつものように病院の中を歩き回り…
「あれ?ここどこ?」
…迷った。他の看護師に任せればいいのに放置していたためであろう。
普段なら看護師が静止するのだが歯止めのいない子供は何をするかわからない。
「確かここってパパとママが入っちゃ駄目って言ってた所だよね…
んぅ〜…ちょっと位なら分からないよね。うん!」
一人で納得すると赤い字ででかでかと
『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたパネルの下がる
鉄製の重々しい扉をゆっくりと開いた。
ここは一番東の病棟の一番隅にあるエレベーター脇の死角。
女の子が入っていった事など誰も気づきはしない。(そんな所にあるのがふしz(ry)
「んしょっと…うわぁ暗い。」
少し不安な顔をするが好奇心が勝るのはこの年頃の子供なら当然。
電灯が切れて差し込む光は今開いた扉から差し込む光だけと言う薄暗い中、
急な階段を一歩一歩ゆっくりと下りていった。
子供には長い階段を下りきるとそこには何の変哲も無い廊下がのびていた。
変わっているところといえば地下にあるため窓が無いと言う所。
蛍光灯の無機質な白い光で照らされ、より一層機械的に映ると言うところだろうか。
「なぁんだつまんない。でも、折角だから探検しとこうかな。」
廊下を少し進んだところで周りを見回していると
がちゃり…きぃぃばたん。
「やれやれ。ママも人使いが荒い…
あれ?ここ電気が切れてる。後で換えておかなくちゃ。」
(パパの声だ!大変、どこかに隠れなくちゃ!)
院長にも関わらず小間使いのようなことをさせられている父親は
幸い階段を下りてくる途中らしくまだ見られてはいない。
慌てて近くにあった扉を開けて飛び込んだ。
薄暗く妙な臭いが漂う部屋の中、
整理された部屋の端に、他は整理されているのにも関わらず何故か
山積みにしてある空のダンボールの中に身を潜める。(お約s(ry)
足音はこつりこつりと廊下を進む。
(ここなら見つからないよね。この部屋に入るわけじゃないだろうし…)
こつ…こつ…かつ、かちゃ、ぱたん。かちかち。
「はぁ、ここも電気切れてる。えーと、天然痘の資料はっと…」
皆様のご想像通り、案の定この部屋に入ってきました。
一方、予想だにしていなかった綾音は身を硬くし、
息を殺して気づかれないよう勤める。
「あったあった。これでママに怒られなくてすむ。」
妻の尻に敷かれた威厳のまったく無い父親は部屋を出ていった。
「ぷはぁっ、やっと出られた〜」
階段を上る音を確認すると息を殺していた綾音は
ダンボールの山から飛び出て、部屋の中を見渡した。
部屋の壁沿いには小難しい題名の書かれたファイルがずらりと並び、
まだ病院らしさがあったが、
人一人の通れるスペース以外には棚が立ち並び、そこには所狭しと
妙な液体の入ったビンや臓器っぽいものが浮かぶ筒や見るからに怪しい瓶等々
○×研究所と聞いて思い浮かぶ想像図の怪しさを三倍増しした様な物が並んでいた。
「っ…!」
幼い女の子が絶句するのも無理は…
「うわぁ!本で読んだことはあったけど初めて見た!感激〜」
…あった。怪しい物達を喜んで眺めている。
「こんなにあるんだから一つくらい無くなっても気づかないよね。」
立派な犯罪ですがそんなのは気にも留めないのが子供。
小さめのビンを一つ手に取るとポケットの中にしまいこみ部屋を後にした。
ばたんと大きな音を立てて閉まる扉の上には『病原菌資料室』と書かれていた。