「じゃあお先に帰らせてもらうよ。鍵や電気の確認よろしくね。」
そう声をかけて最後まで残っていた熟年教師が帰っていった。
「はい、週番のお仕事はちゃんとこなしておきますよ。また新学期に。」
私は会釈をして立ち上がると鍵束を持って職員室を出た。
まだ日も高いが放課後になった校舎の中を歩く。
教室の黒板には卒業式の名残の落書きが残されていた。
窓を一つ一つしっかりとチェックをしながら鍵を閉めていった。
玄関にもしっかりと鍵をかけ、白衣を羽織ると生物室へと入っていく。
教壇の上に立ち、数人のみの生徒たちの顔を見ながら口を開いた。
「皆卒業式は楽しかった?お弁当は食べ終わってるよね。
じゃあ最後の補習を始めましょう。
今回は副作用についての実験をしたいと思いまーす。」
ぎらぎらとした目をしながらこちらを見つめる。
舌なめずりまでしているものまでいた。
「もう君たちも卒業だからね。記念に薬品を使うよ。」
そう言うと待ちきれないように立ち上がった生徒がいた。
3年D組の委員長。もう卒業してしまったから元と言うべきか。
とても真面目な子で先生方からの評価も上々だ。
「本日はどのようなポケモンを使うのですか?」
興奮の所為か眼鏡が曇り、肩が震えている。
「いい質問だね。でも見てのお楽しみだよ。」
そう言うと教壇の横にある大きな箱を持ち上げた。
教壇の上に置き、箱の外側を剥がすと水槽のようなものが姿を現した。
水槽の壁はかなり厚く、中には眠ったプリンが入っていた。
「この間のピッピはあんまり長持ちしなかったからね。
もう少し肉付きの良い、似たようなのを選んでみました〜。」
プリンを見せた途端にざわざわとして指の関節を鳴らす子もいる。
二,三回手を打つと水を打ったように静かになった。
「さっきも言ったけど今日は手を出せませーん。でも安心して。
補習が終わったらちゃんと卒業記念に一人一つずつプレゼントするから。
中身は家に帰ってから確かめてみてね。」
がっかりした顔をした後飛びっきりの笑顔を見せる。
この年頃の子達の表情は見ていて飽きない。
「それでは始めま〜す。」
微笑みながらプリンをつつく。
「ぷぅ…ぷり?」
大きな瞳を眠たげに開くと周りを見回して不思議そうな顔をした。
「ぷりぃ?ぷりぷり♪」
たくさんの目に見つめられて恥ずかしそうにする。
「うっわぁ…殴りてぇ。」
先ほど指を鳴らしていた不良生徒がそう呟いた。
手を出せないことを念押ししながら薬棚から取り出したビンの蓋を開けた。
中からカプセルをざらざらと取り出すとプリンに話しかけた。
「プリン。君は大変な病気に掛かっているんだ。
これを飲まないと死んでしまう。さぁ早く飲んで。」
口を開けさせカプセルをいっぺんに放り込み水を流し込んだ。
途中で閉じようとする口を無理やり開いて水を流し込む。
「ぷっぶふっあ゛ぇえ゛」
500mlペットボトルに入っていた水を全部入れると
口を押さえがくがくと揺さぶった。
その衝撃と死への恐怖で無理矢理全部飲み込んだ。
元々丸かったプリンの体が少し膨張したように見える。
ある程度効くまで時間があるので生徒たちと『遊ばせる』ことにした。