私は昔から住んでいた研究所の所長になった。
かつてこの研究所に飛び入りで入ったが、異例の速度で昇進を遂げ、
今では表舞台に立ち『第二のDr.O』と呼ばれ、ポケモン研究界のトップとなった人であり、
その裏では多くのポケモンを残虐非道に消し去った敬愛する父、
その父をこの道に入らせた原因となる、私を産む直前に野生のヘルガーに殺された母を持つ。
小さな頃から残虐なものが大好きで、恐怖に慄く表情を純粋に「可愛い」と思い、
その「可愛い」表情を見るために父の研究の手伝いをし始めた。
父の研究には元々興味があった上に、一気にのめりこんでしまい、
父に負けるとも劣らない速度でこの地位にまで上り詰めた…
「…あら、ごめんなさいね、鈴。少しぼんやりしていたようね。
たまに確認しないと自分が誰なのか分からなくなるときがあるの。
さて、今日も仕事に取り掛るとしましょうか。」
私の仕事は、この研究所の全体の管理。
その中でも一番気に入っているのは、職員たちの働きを見て人事関連の諸々を決めること。
自分でも”研究”したいけれど、それどころではないくらい忙しいから見るだけで我慢。
上の者のみが通れる仕事振りを観察できる通路から見てまわることが日課になっているわ。
部屋の中にはモンスターボールほどの浮遊型カメラが飛びまわり、
この通路から見えづらい、ポケモンの表情や研究員の手元などを
窓枠のボタンで窓に映すことができる。もちろん父様が考案したもの。
悪環境に置かれたポケモンを研究する棟のある部屋では、
グライオンが散々痛めつけたドンメルを「ハサミギロチン」によって葬るところだった。
いくら鈍感といっても、背中が刳り抜かれ、満たされていたマグマが水に替えられてしまっては相当辛いようで、
いつもぼんやりとしている目は痛みを通り越して衰弱しきっており、さらにぼんやりしてしまっている。
その目はグライオンのハサミが閉じられると同時に一瞬大きく見開かれ、薄く閉じられた。
グライオンは満足気に刎ねた首をハサミでそっと掴んで研究員の元へと運んでいった。
「鈴はどう思ったかしら?…相変わらず、人間に優しいのね。
でも、私としては、グライオンを褒めている研究員には悪いけれど、まだまだ甘いわ。
衰弱させ過ぎない、自我を保っているところで一気に死まで追い込まなくては…ね。
出来るだけのびのびさせるのが主義だけれど、ある程度は注意しなければいけないようね。」
体の造りを研究する棟のある部屋では、
ニョロモの公式発表である皮膚の薄さと生え立ての足の弱さを検証しようとしていた。
ちょこちょこと走り回るニョロモの後ろをクサイハナがゆったりと追いかける。
2キロも離れていても臭いが漂うというその異臭によたよたふらふらと逃げ惑う。
産まれたばかりらしく、近くには卵の殻が転がっており、十数歩進んでは転び、
じたばたしつつ立ち上がってクサイハナに触れられる寸前に逃げるのを繰り返している。
生え立ての足は歩くのが苦手という事は無事証明できたようだ。
皮膚の薄さも、仰向けに転んだ際に内臓がうっすら見える事から証明された。
しかし、ここが”体の造りを研究する”場である以上それだけで済むはずもない。
照明を強くし、本気を出したクサイハナの蔓にあっけなく捕まったニョロモは必死でもがくも、
相性も悪くレベル差も歴然とあっては到底抜けられずに床に押さえつけられた。
顔の下辺りと足を押さえつけられ、皮膚を通して見える、脈動する臓器を、
今まで観察に徹していた研究員がすっと撫でた。
無表情のままの研究員は酢を取り出すとニョロモに振りかけ、塩をまぶす。
食べるのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
顔側の蔓の下辺りにすーっとナイフを滑らせると、その後を追って赤い筋が現れ、
赤い血の玉が膨らんだかと思うと、体を伝わって床に落ちていった。
他に比べて大して痛いはずも無いが、産まれたてのニョロモには相当応えるらしく、
ぴーぴー煩く泣き、耐えかねたクサイハナに頭を数回叩かれてようやく堪えるようになった。
その間に研究員は無関心に手に滑り止めの塩をまぶし、両手にしっかりと塗りこんでいた。
そのまま傷口に手をかけたかと思うと一息に剥ぎ取った。