『よく頑張ってるねぇ。そろそろもっと中の方にも行ってみよっか。
じゃ、次は内臓ね〜。お腹の上の方から爆発するんだけど、
一個でも取り出し損ねると連鎖を起こしちゃうから注意ね?』
数度の爆発によって筋肉辺りまでを露出させた足を引きずるようにしながら、
血脂にまみれたバタフライナイフを投げ捨て、新しくアーミーナイフを掴む。
大量の出血をするたびに輸血をしたため青黒く盛り上がった箇所のある腕を
大変そうに持ち上げながらお腹に突き立てる。
すでに喉は潰れ、ぜぇ…ひゅぅ…と言う音しか立てなくなっていた。
くらくらする頭と飛びそうになる意識を痛みと意思で無理やり覚醒させ、
なるべく余計な所を傷つけないように薄く浅く切り開いていく。
手術時に娘が感嘆した腹圧で消化器官が飛び出してくる。
手で無理やり押さえ込み、糸を手で引きちぎって爆弾を次々と取り出していく。
ダミーの傷も開いてしまったり、胃液で無事な部分も焼け爛れさせたりしながら
着実に胃から腸へと手を進めていく。
そんな中で、無情にも始まるカウントダウン。
焦りと体液や血液のぬめりで上手く糸を掴めなくなりさらに焦るという
悪循環にはまり込んでいく。
遂にカウントダウンも終わりかけ、諦めたのか目を閉じ、
衝撃に備えるパチリスの耳に『0』の声。
同時にぐぼぼぼぼぼぼんとくぐもった爆発音が響き、腹の辺りが白い閃光に包まれる。
小腸から大腸にかけて弾け飛び、肉片や血が宙を舞うのが見て取れた。
パチリスの口からは大量の血がごぷぅと溢れ出し、娘の笑い声だけが響いていた。
虫の息になったパチリスの耳にはその声は聞こえているのだろうか?
『もう死んじゃうのかな?その前に最後まで爆発させてね。
あ、もうちょっとで最後だし、いい事教えてあげる。
あのね…』
『これ時限式じゃなかったんだ。』
『私の手元にスイッチがあって、それを押せば爆発したの。
焦る姿が可愛かったからそんな嘘ついちゃった。
…じゃぁ最後は一度に押すよ。えぃっ!』
かろうじて胸が上下するのみとなったパチリスの胸の辺りと顔で閃いた光が収まると、
視神経がつながったままの目玉や、それが入っていたぽっかりと口を開けた眼窩、
ぷるぷるとした脳みその欠片、だらりと垂れ下がった、
こんなにも長かったのかと思えるほどの舌、
完全に弾け飛び、原形を留めず、脳みそが見えるほど抉れた耳、
顔の真ん中に陥没したような跡に二つの小さな穴が開いているだけの鼻、
それらが頭と思しき辺りに飛び散り、
心臓も肺も吹き飛ばされた胸には大きな穴が開き、
床にこびり付いた血がてらてらと光り輝いていた。
動くもののいなくなった実験室には娘の笑い声だけがこだまするのみであった。
〜※〜※〜※〜
実験はずいぶん上手く行ったようだ。
それでこんなに幸せそうな寝顔をしているのか。
こんなに娘を幸せに出来たパチリスもさぞかし嬉しいことだろう。
私は娘の頭を一撫でしてから、寝室へ向かった。
明日も良い日になることだろう。