今日はイーブイたちの檻に足を踏み入れてみた。

入った途端に足元に擦り寄ってくるイーブイ。

水の中から恐る恐る様子を伺うシャワーズ。

高い所から余裕そうに見下してくるサンダース。

マイペースに眠ろうとするブースター。

ちらと見ただけで何事も無い様に振舞うエーフィ。

闇の中から冷静に観察し、こちらを見つめるブラッキー。

飛び回りながら興味津々で見つめてくるリーフィア。

目があうと会釈をする人間のようなグレイシア。

…面白そうだ。全種連れて行こう。風鈴も目を輝かせている。

最初に目が合った奴らを一種一匹ずつケージに放り込もうとするが、

大人しい奴らは別として、敵意のある奴や元気がありすぎる奴は捕まえるのに苦労した。

風鈴の協力によりどうにかなったが、思わず数匹仕留めるところだった。

実験室に連れてきて放してみると、今まで群れで快適な場所で生きていたこともあり、

実験室という無機質で冷たく硬い印象を受ける部屋に

各種一匹ずつという状況に戸惑いはしていたものの徐々にその暮らしぶりを発揮しだした。

イーブイは何かあるごとに周りの者たちに助けを求める末っ子タイプ。

シャワーズは部屋の隅で蹲り変わった環境に怯えつつ周りに左右される長男()タイプ。

サンダースは体を膨らませ自分がボスだとばかりに周りに睨みを効かせる父親タイプ。

ブースターはうとうとたかと思うとすぐに昼寝をしだすマイペースな四男()タイプ。

エーフィは固い床が気に入らないのか文句ばかり言う三男()タイプ。

ブラッキーは思案顔でカメラを見上げ冷静に状況を分析する次男()タイプ。

リーフィアは飛び回り自由奔放を体現する五男()タイプ。

グレイシアは個性豊かな者達の世話を嫌な顔一つせず一手に引き受ける母親タイプ。

サンダースとエーフィが頂点を競い合い、ブラッキーは頂上を極められるにも関わらず、

下らないと知っているためそんなことは眼中に無い。

ブースターとリーフィアは睡眠と遊び、対象は違えどそれさえ出来れば幸せで、

周りの反応など気にも留めず、小競り合いにも巻き込まれないほど。

イーブイは周りに頼りっきりで特技のぶりっ子で自分の幸せだけを追求し、

シャワーズは個性的な周りに振り回され、いじめられ、自虐的な行動をするのみ。

グレイシアのみが甲斐甲斐しく世話をし、エーフィの我侭やイーブイのおねだりなどの

無理難題に応対する、メイドというより奴隷のような生活を嬉々として受け入れている。

そんな関係があのイーブイズの飼育部屋で繰り広げられていたようだ。

睡眠剤を溶け込ませた酸素を部屋の中に送り込み、眠らせ、

一匹ずつ隔離した状態で強化ガラスのケースの中に入れていく。

巨大なガラスケースを分厚い仕切りで区切って小部屋に分けたもので、

一つ一つの部屋にカメラと様々な測定機器が仕掛けてある。

周りが見えないという点を除けばある程度快適な状況にはしておいた。

それでも、不安になる奴はきゅぅきゅぅ鳴きながら壁を引っ掻いていた。

それぞれ好き勝手に行動し、うるさいのでさっさと始めよう。

風鈴により毒設置準備は着々と進められていく。

今回は数が多いこともあり、多くの毒を使うことになる。

私だけでは手がまわらず、設置は風鈴に任せてしまった。

出来上がったものは期待通り全て満足のいく出来栄えだった。

風鈴にはそのまま実験室に残ってもらう。

毒に耐性のあるものにやってもらわないと、

ただでさえ色々な薬品が混ざりあい危険な上に、

気体が皮膚に触れただけでも吸収してしまうものもあるのだ。

まずはグレイシア、リーフィア、ブラッキーの順に

希釈した毒液の混ざった餌と水を、期間をずらしつつ少しずつ与える。

グレイシア、リーフィアは何の疑いもなしに、

ブラッキーは警戒しつつも空腹に耐えられずに、

餌に口をつけ平らげ、喉が渇けば水を飲んでいった。

今はまだ全然効果は出ないが…まぁ、後のお楽しみだ。

こいつらは長丁場になるので、他の奴らを先に片付けてしまおう。

さて、気を取り直して初日はイーブイからだ。

最初なので派手にいこう。イーブイには四アルキル鉛を使用する。

ケースの上に浮かんでいる風鈴に合図をし、蓋を上げ四アルキル鉛を流し込んでもらう。

蓋が開いたことに安心して真下に走り寄ったイーブイは、

頭からまともに被ってしまった。

驚いてすぐに体を震わせて振り払うが、

毛の隙間から僅かに入り込んだ四アルキル鉛が効果を表した。

べたべたとする薬液に不快感を顕にし、壁や地面に体を擦りつけ始める。

しかし、徐々にその表情がべたつきの不快感だけではなくなっていく。

体をくねらせ体中の痒みに耐えようとするが、いつまでたっても無くならない。

その瞳は黄色っぽく染まり、濁った目は痒みで朦朧とする頭の中を体現していた。(黄疸)

それほど動いたわけでもないというのに、舌をだらりと垂らし視線を彷徨わせる。

目の端に写った目的のモノに目をぎらつかせて駆け寄る。水入れだ。

水入れの中に舌を伸ばし、ぺちゃぺちゃと音を立てて水を飲む。

空になっても最後の一滴までも残さないよう、舐めとっていた。(多渇多飲)

まだ足りないのか周りを見渡すが、その部屋にはもう水は無い。

甘えるようにきゅぅんと鳴くが、私はそれほど甘くは無い。

鳴き続けうろつくイーブイの足が不意にかくんと折れる。

測定値を見ると前足の先をぴりぴりとした感覚が走っているようだ。(末梢神経障害)

前足を舐め摩る。しばらく同じ体勢で舐めていると思うと、そのまま固まってしまった。

老人のような遅さでゆっくりゆっくりと足を伸ばし、

動かすたびに顔を苦痛で歪め、助けを求めるように鳴く。

それまでも、周りに助けてもらうことで生きてきたのだろうな。(関節痛)

助けが来ないと分かるとむすっとしたような表情を一瞬見せるが、

カメラに気づくと涙を湛えた瞳できゅうぅんと鳴きながら見つめてきた。

よろけた様な足取りで近づいてくるのは演技半分本気半分といったところか。

間接を曲げないように来るが、それでも痛みに顔を歪める。(筋肉痛)

研究者である私は冷静でなくてはいけない。その私でさえ反吐が出るような、

ぶりっ子っぷりを見せ付けてくれるイーブイには、正直腕が鳴る。

そのイーブイは、軽く腹が張っているようだ。妊娠ではないが。

端にある砂トイレに座り込むが何も起こらないまま時間が経っていった。(便秘)

一息つき、力んで強張った表情を緩めるイーブイを軽い痛みが襲う。

カメラ目線で情けない声を出し、カメラの死角(隠しカメラの方)を向いて舌打ちをする。

これだけあからさまにやってくれると面白さがこみ上げてくる。

前足で腹部を押さえるイーブイを風鈴も呆れ交じりの笑顔で見つめていた。(腹部の疝痛)

ようやく出た便は、ほぼ液状だった。ぐうぅと腹を押すようにして排泄するイーブイ。

液状のものの噴出が終わると、半固形状の便が押し出されるように出てくる。

力んでは休み、力んでは休みするイーブイの表情からは、

余裕を感じさせる甘えた表情は消え、苛立たしげな醜い表情しか残っていなかった。(下痢)

ぐるぐるとなる腹を押さえ、痛みに耐えながら排泄を続ける。

脂汗をだらだらと流し、歪む表情は先ほどまでの偽った表情よりはましだった。

排泄物に目を移すと便固有の色の中に緑や黒といった色が混ざっていた。

それは食物の未消化物と言うより便の色自体がおかしいと言った方が合っていた。(異常便)

ぐううぅぅと一際大きく唸り声を上げたかと思うと排泄物の中に赤色が混ざった。

鮮血の赤と異常便の緑と黒、そして正常な黄土色。色とりどりだ。

カメラの存在を思い出したらしく慌てて取り繕うとするが無理だ。

悲鳴に近い鳴き声をあげつつ便の出きった肛門から腸液を飛ばしていた。(血便)

便を出し切って多少は収まった腹部の痛みの代わりに今度は不快感が襲った。

頭の痛くなるような、出来ることなら内蔵を丸ごと交換したいような気持ち悪さ。

ふらつき、意識朦朧としているイーブイにとっては、

車酔いのような感覚らしい。酒にさえ酔わない私にしては未知の感覚だが。(腹部不快感)

喉の奥に前足を突っ込み、舌を引っ張ったことも手伝って、

胃の内容物をぶちまけた。咳き込みつつ息を吸う間、背を震わせて猛烈な吐き気に耐える。

腹部の痙攣に合わせて吐瀉物が流れ出る。独特の酸味のある胃液にも吐き気が誘発され、

収まりかけたところでまた始まる。水で口を漱ごうにもすでに無かった。(嘔吐)

吐き気が続くこともあってか、餌には一切口をつけようとしなかった。

まぁ、仮に吐き気が無かったとしても毒の影響で口をつけられないだろうが。

顔を上げたイーブイはげっそりと疲れたような顔をし、

口から唾液なのか吐瀉物なのか分からないようなものをたらしていた。(食欲不振)

痺れや各部の痛みに耐えて立っていたイーブイの体がぐらりと傾いだ。

上と下からの排出の疲れに加えて赤血球が壊れているのだ。

猛烈な疲れと眠気がイーブイを襲うが痛みで意識が繋ぎとめられている。

風鈴は苦悶の表情を浮かべるイーブイを楽しそうに見下していた。(溶血性貧血)

血が急激に壊れていくことで顔からは血の気が引いていく。

青白い顔色を隠す茶色い毛皮の真ん中で黒い瞳に黄色く濁る白目が揺れる。

気絶と覚醒の狭間で意識を朦朧とさせているイーブイの表情は、

娘が見たら間違いなく可愛いと言うであろう代物だった。(蒼白)

何度か意識が飛んだことで睡眠の代わりになったのか睡眠障害のためか、軽く首を起こす。

最初の頃見せていたぶりっ子の面影はすでに無く、抑鬱、焦燥感、倦怠感により、

イラついた表情を見せ、周りを睨みつけ、カメラに向かって吠え立てる。

胸から首の筋肉が痙攣し斜頸が発生、発狂しかけていた。(神経症状)

カメラがある壁目掛けて体当たりを繰り返し見えない敵を振り払う。

その目は発狂した者のそれだ。その瞳は何も映さず、目に光も力も無い。

動きが弱まり始める。無理に動いたことと神経が正常に機能していないためだ。

妙な動きを始めているのは発狂しているためだけではないのだ。(神経麻痺)

徐々に自分の意思での動きが止まり、小刻みな震えが始まる。

風鈴の顔を見るとそこには満足そうな笑みが浮かんでいた。おそらく私も同じだろう。

体中がぴくぴく動き、一瞬目に光が戻り、助けを求めるように訴える。

その目には最初の頃のぶりっ子な色は消え、残るは恐怖のみだった。(痙攣)

はっはっと浅く頻繁に呼吸を繰り返す。そろそろ死が近いのだろう。

目からはプライドで作られたダムで堰き止められていた涙がとうとう溢れ出していた。

今までの人生が走馬灯のように流れていることだろう。ぶりっ子な人生が。

思うのは後悔だろうか?満足だろうか?それとも純粋な死への恐怖だろうか?(呼吸困難)

狭い小部屋の中で体を反らした奇妙な状態で絶命したイーブイ。

砂トイレには便と吐瀉物がブレンドされた汚物が撒き散らされ、

最後まで苦しみぬいた証しとなる体の汚れと表情。

最初の犠牲者であるイーブイは華々しく散っていった。

…だいぶ時間が掛かってしまったな。準備も含めれば朝から初めて、今は深夜だ。

娘の世話は先に帰った風鈴と鈴、その他諸々の人がしてくれているから心配は無いが、

帰って見るのが娘の寝顔なのは少し寂しいものがある。

さて、2日目。昨日の処理は後回しだ。次のシャワーズに移る。

こいつの小部屋には中に水を湛えさせてやってあり、安心する環境は整えたはずだ。

しかし、大分時間が経ったというのに水の中に体を溶かし、

底に設置してある酸素を送り込むポンプからはぼこぼこと泡が吐き出され、

その揺らぎによって、底の隅の方に何かがいるということが分かった。

その気配からは未だに怯えと不安しか伝わってこない。

泡か…こいつにはクロルピリホスを使おう。

風鈴に指示を出し、ポンプの管を付け替えた。

一瞬勢いの弱まった水泡だがすぐに勢いを取り戻した。

水質の異変に気づいたのか不安そうな瞳を泳がせながら姿を見せた。

水面に顔を出し、小部屋からの出口を探す。もちろんそんなものは無い。

顔には水では無い液体が出てきていた。焦りのためでも運動のためでもないものが。

涙も出ているがそれでもない。…これだけで泣くとは随分泣き虫だな。(発汗)

焦れば焦るほど呼吸速度が上がり、えらから取り込まれる毒も増えていく。悪循環だ。

そんなことにも気づかないとは、不安で思考力が麻痺しているのだろう。

水面の上に出した泣き顔。口からは舌がはみ出、唾液がだらだらと流れている。

自分の体の異変にさえ恐怖を露にし、さらに混乱していく。(唾液分泌過多)

混乱や焦りのためだけではなく、瞳が急激に窄まる。

急に暗くなった視界にも焦りが増加し、壁にぶつかり始める。

最初ははらはらと流れていた涙も、今では泣き声もついた号泣となっている。

毒の効能では無いにも関わらず、発狂しそうだとは…臆病にも程がある。(瞳孔収縮)

私には呆れ顔で、風鈴には冷ややかな目で見られているシャワーズは、

ようやくカメラに気づいたのか、出してくれと必死に泣き喚いている。

泣き過ぎと毒の効果により、胃を押し上げる圧力が生まれる。

青い顔をさらに青くして堪える様は無様だった。(吐き気)

腹部が傍目にも分かるほどにひくひくと動いている。

込み上げる吐き気に耐えられなくなりそうになりながらも、

水槽の中にぶちまけることになることくらいは混乱した頭でも分かったのか、

激痛と吐き気を懸命に堪え、前足で口元を押さえ込んでいる。(胃痙攣)

とうとう押さえ込んでいる前足の隙間から吐瀉物が漏れ出した。

一度漏れてしまえば後は早い。水面に広がり沈んでくる自分の出した汚物から、

逃れるように底の隅で体を丸め、肩を震わせ泣きながら吐いていた。

自分が出しているものから逃げるのに止まっていては意味が無いというのに。(嘔吐)

咳き込みながら鼻と口から汚物を吹き出すシャワーズの顔はどろどろになっていた。

鼻が胃液でひりひりするのか鼻から水を噴出しながら、けほけほと咳き込む。

咳き込んだ拍子に排泄物が飛び出してしまう。羞恥と情けなさでまた泣く。

汚物は水が濁って撮影の邪魔なので、風鈴の技で避けてもらった。(下痢)

止まらない嘔吐と排泄、涙に咽びながら、くらくらする頭を抱える。

無い出口を探そうとするものの壁に頭をぶつけてしまう。

暗い視界と平衡感覚の無くなったシャワーズには身動きは危険なものとなった。

どうしようもなくなったのか、体を丸めて目を閉じてしまった。(めまい)

丸めていた体が徐々に開き始めた。シャワーズの顔を見ると、

戸惑っていることから自分の意識ではないことが分かる。

くぅっと引き伸ばされた体からは攣ったような痛みがシャワーズの脳に届けられる。

張った筋肉の痛みはなかなかとれず、激痛に身を捩じらせていた。(筋痙攣)

動こうとするシャワーズの意思に反して、そのまま筋肉は強張ってしまった。

まだこの痛みが続くことに呆然としつつも涙を流して声にならない悲鳴を上げる。

ばきばきと音がしそうな突っ張った四肢を脳に響く痛みに耐えながらほぐす。

滝のような涙は水の中でなければ干上がるほどの量に達していた。(筋痙直)

ほぐす作業を続けていた前足を止め、咳き込みながら喉に前足を当てる。

数回に分けて息を吸い込み、無理やり吐き出すようにして呼吸をする。

明らかに苦しそうな表情を浮かべるシャワーズの中では生きようとする意志と、

死を目前に控えた諦めや悟りというものが戦っていた。(息苦しさ)

呼吸がしづらくなり、十分な酸素が取り込めなくなった体からは意識が離れかけていた。

こぽこぽと小さな泡を吐き出していたかと思うとそのまま意識を手放した。

死んではいないが、生き返れるような状況ではないことが明白だった。

風鈴とカメラ越しに目を合わせると、次の準備に取り掛かってもらう。(意識喪失)

意識を失った後も眉を顰めながらびくっびくっと痙攣しながらごぽっがぼっと、

泡を吐き出していたが、最後に大きな泡をごぼりと吐き出し動かなくなった。

なみなみと水の湛えられた小部屋には汚物と共にシャワーズの体が浮かんできた。

水中の生活に特化したはずのシャワーズの溺死体。

そのシュールな姿からは臆病さは微塵も感じさせず、堂々としていた。

すぅと沈んだ体は浮遊している汚物によって見えなくなった。

今日も良い夢を見られそうだ。

3日目。昨日は早くあがれたため、昨晩はよく眠れて、「良い夢」も見られた。

気を取り直して、三部屋目に目を移すと壁を睨みつけるサンダースの姿が映った。

怒りのため体から常にバチバチと飛び散り閃く小さな稲妻。

こんな狭い部屋は嫌だとでもいうように来たては壁を壊そうとしていたが、

壊れないことを理解したのか、空腹で動けないのか睨むだけに止まっている。

カメラの方はちらちら見ているが、低い位置から精一杯見下そうとしていた。

風鈴に指示を出してサンダースの動きを封じ、カメラの方に意識を向けさせている隙に、

餌と水にメチルジメトンを混ぜ込み、サンダースの体を落とす。

いきなり落とされたにもかかわらずしっかり受身を取っているあたりはさすがだ。

しかし、何も気づかずに腹立たしげに餌をむさぼる姿で先ほどの称讃は取り消しだな。

体内に取り込まれたジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフェイト。

別名メチルジメトンがじわじわと、だが着実に猛威を振るい始める。

高慢なサンダースの餌入れにぽたりと雫が落ち、電気がばちっと小さな音を立てる。

餌の中に落ちた水滴に怪訝そうな表情をするサンダースの額から、

また一滴の汗が餌に落ちて吸い込まれた。先ほどの水滴は汗だったのだ。

それほど暑くは無いし、暴れてもいないのだが、と小首を傾げていた。(発汗)

気を取り直して食事を続けようとするサンダースの口からだらりと唾液が零れる。

カメラを気にして慌てて啜るが、それでも口を開けば溢れてくる。

サンダースとしては涎を垂らしている姿を見られたくないのだろう。

カメラから見えない位置(隠しカメラからは丸見え)で食事を続けた。(唾液分泌過多)

食事中に急に咳き込む。周りをきょろきょろと見回し、虚空を睨むようにする。

胸の辺りを押さえながら、荒くなった息を整えようとしていた。

空気が薄くなったように感じているのだろう。助けを求めるのか?

しかし、何とも無いと強情にもカメラの方に不敵に笑って見せた。(息苦しさ)

きゅぅと窄まる瞳孔。急激に暗くなる視界。内心驚いているサンダースは、

精一杯威厳を取り繕うため何事も無かったかのように食事を終えた。

食事が済んだ後の習慣で顔を洗う際に、こっそり目元を拭うが

それでも眩しいものを見たときのような瞳は戻る気配が無かった。(縮瞳)

暗くなった世界に足を踏み出すが、そのまま体がぐらりと揺れた。

さらに暗転する視界と、コントロールの利かない自分の体。最初より大きな雷が走る。

どうと倒れこむサンダースは自分の体のおかしさをようやく自覚したようだ。

いや、自覚はしていたが認めたくなかっただけかもしれないな。(眩暈)

ぐるぐると回り歪む世界。倒れた自分を叱咤激励して立ち上がろうとするが上手くいかず、

再び倒れこむ。目を開けていても閉じていてもくらくらする頭は変わらなかった。

そのことも手伝って気持ち悪くなってしまった。それでも人前(カメラ前?)では吐くまいと、

気づかれまいと、必死でむかむかする気持ち悪さを耐え忍んでいた。(吐き気)

込み上げてくる胃の中身を我慢して飲み下し、

冷や汗を垂らしつつも勝ち誇ったような歪んだ笑顔でカメラを見る。

その顔が耐え切れないほどの苦痛によってようやく崩れた。

腹部を襲う激痛に、堪えようとしても呻き声が漏れてしまった。(胃痙攣)

格下の奴に情けない姿を見せてしまったと、羞恥に顔を赤くするが、

抑えきれないほどの気持ち悪さに、とうとう床に撒けてしまった。

飲み下そうとするが、その行為がかえって気持ち悪さに拍車をかけてしまう。

プライドが音を立てて崩れ去っていくのを留めることは出来なかった。(嘔吐)

胃の中身を全部ぶち撒けてしまい、溢れようとする悔し涙を唇を噛んで耐えるサンダース。

その努力をあざ笑うかのように腹がぐるぐると鳴り出した。

括約筋に力を込めて留めようとするが、その隙間からガスが漏れて汚い音を響かせる。

目とぎゅっと瞑り、羞恥に体を震わせながらも耐え切れず、排泄が始まった。(下痢)

我慢しているため、ガスの漏れる音や排出音が余計に響いてしまう。

悔し涙を流しながらも、カメラの方をきっと睨む精神力はすばらしい。

それでも、筋肉が強制的に攣ってしまう痛みには耐えられない。

押さえた叫び声をあげながら排泄物と吐瀉物の中に倒れこんでしまった。(筋痙直)

異臭と屈辱感に塗れ、唸り声を上げるがどうしようもない。

汚物の中から出ようとするが、どうしても力が入らない。

ふるふると小刻みに震える四肢に噛み付き、動こうとするがどうにもならない。

とうとう、体中の筋肉が震えだしてしまい、その表情も引きつっていった。(痙攣)

体中をぴくぴくと震わせながらもカメラ越しにこちらを睨む目からは光が失われない。

ぎりぎりと歯軋りをしながら断末魔の絶叫と化した呪いの声をあげ、

脳の中に広がる暗闇の中へと落ちていくサンダースは意識を手放した。

その表情は痙攣していたにもかかわらず、こちらを睨みつけていた。(意識喪失)

その精神力、すばらしかった。賞賛の声でサンダースの冥福を祈ろう。

敬意を込めて、風鈴の技によってずたずたに引き裂かれる死に様を送る。

ふわっと浮き上がって小部屋から出された体に、風鈴の超音波の声で裂傷が生じる。

びしっぴしっと傷の上に新たな傷が重ねられていくも、指一本動かすことさえ出来ない。

鮮血が飛び散り、壁や床に点描で絵が描かれていく。

皮膚が剥がれ落ち、筋肉に亀裂が入り、骨が露わになっても終わらない。

腹に入った大きな裂傷から血が溢れ、べろんと剥がれる皮膚の下から内臓が零れる。

垂れ下がる小腸が淡い光を帯び、急激に引きずり出された。

薄く閉じられていた瞼が跳ね上がり、怒りに満ちた表情が暴走する。

目は左右違う方向をきょろきょろと向き、舌がありえないほど長く垂れ下がり、

意味不明な叫び声をどこから出ているのかと思えるほどの大音量であげ続け、

その瞳に内臓が映し出された途端、激痛とショックによって絶命した。

絶命しても続けられる攻撃によってボロ雑巾同様、

ぐちゃぐちゃの肉塊と成り果てたサンダースの死体を、尊敬の意を込めて小部屋に戻した。

もちろん戻し方にもきっちりと敬意を払って、放り込むという手段をとらせていただいた。

今日は娘より早く上がれた。娘のためにサンダースの映像を持って帰ってあげよう。

私の娘ならきっと「可愛い!」と喜んでくれるはずだ。

4日目。昨日は映像に加えて手料理を作ったため、娘にとても喜んでもらえた。

気分が良いのでさっさと始めよう。

次はブースターだ。ブースターの映るカメラの方へ目を移すと、

相も変わらずブースターは昼寝の真っ最中だった。

周囲は寝息に交じる火の粉で、黒い煙が上がり火種がぶすぶすと燻っていて、

餌入れや水入れも火の粉が当たったため溶けかけてしまっている。

仕方が無いので、血管内に注入することにする。

風鈴がモノフルオール酢酸の入った注射器片手に、

静かにブースターの傍に舞い降り、針を差し込む。

突然の痛みに驚き目を覚ますが、覚醒する頃にはすでに注射も終わり、

風鈴が飛び去った後だった。不思議そうに針の痕を見ていたが、

再び大きな欠伸をすると、眠る体勢になってしまった。

眠るブースターの耳がぴくりと動き、目を覚ます。

眉根を顰め、腹の辺りを擦る。どうやら軽い痛みがあるようだ。

眠りを邪魔されて不快そうにしてはいるが、先ほどのこととは気づいていない。

この鈍感さにはさすがに風鈴と顔を見合わせて呆れかえってしまった。(胃の疼痛)

何の脈絡も無く唐突にブースターが胃の中身を吐き出した。

咳き込みながら吐瀉物が痞えないよう抑えようとはせずに吐き出していく。

寝ぼけていたのか、鼻からも垂らし、痛みと息苦しさに悶えていた。

どうやらこのブースターはこちらが驚かされるほど鈍感のようだ。(嘔吐)

顔は真っ青になり、急激な体調の変化に戸惑うブースター。

青い顔は内面からではなく毒と呼吸の苦しさの影響のみだ。

いまだに瞼が半開きで、混乱したように周りを見渡すブースターがその証拠である。

半開きの口からは吐瀉物がだらしなく垂れたままだ。(チアノーゼ)

間抜けな様相のブースターが前触れも無しにいきなり気絶した。

脳が急激な情報過多によりショートし、強制睡眠に入ったのかと思ったが、

さらに痙攣まで起こしているところを見るとどうやらそうではないようだ。

どんな形であれブースターにとって、睡眠は問題ないのではないだろうか?(癲癇性痙攣)

また唐突に意識を取り戻す。このブースターには驚かされっぱなしだ。

まだ夢の中と現実との区別がついていないのか焦点の定まらない瞳を彷徨わせている。

止まない嘔吐で大変間抜けな状態になっているが、どうやら低血圧の影響のようだ。

うとうとしたような状態のまま混乱して唸っていた。(血圧降下)

立ち上がっているとふらふらしているため、ぺたんと伏せてしまった。

再び、意識を失う。…眠ったのかもしれないが。いまいち掴みどころの無い奴だ。

心臓がゆっくりと拍動し、時折咳き込みつつもどうにかこうにか呼吸も行なっている。

吐瀉物の中で躊躇い無く寝返りが打てるのは鈍感といえども感心させられた。(脈拍の遅れ)

寝顔を見ていてもつまらないので、機器から送信されてくる測定値を眺めていると、

血流がおかしい。心臓の弁膜に異常が発生したようだ。

炎症によって弁膜が正常に機能しなくなり、逆流が起こってしまっているのだ。

そのため酸素が十分に行渡らず、さらに深い眠りへと落ちていってしまった。(心臓障害)

目覚めることの無い深い眠りへと陥っていくブースター。

吐瀉物で汚れてはいるものの、その表情は幸せそうだった。

毒で強制的に生命を落とさせられるというのに…

最後の最後まで呆れさせてくれる奴であった。(意識混濁)

ふと見ると笑顔を浮かべている。眠れるのがそんなに嬉しいのか…結局最後まで驚かされた奴だった。

こんなにも個性的(おかしいと同意義)な奴は初めてだ。研究対象としては大変興味深い奴だったが…

さて、折角だから…風鈴に指示を出し、毒に侵されて使い物にならなくなった廃フィルターを圧縮させる。

ただのフィルターといっても大きな機材のものなので、相応の大きさも重さもあり、

各所に金属も使われている金網もどきのため、強度もある。そんなものが何枚も使われる。

これも一応リサイクルということになるのだろうか。

こんなことをしている時点で環境に優しいとは、お世辞にも言えないな。

まぁ、そんなことはどうでも良い。どうでも良い考えごとに耽っている間に圧縮も終わったようだ。

見た目に反した重さを持つ直径20cm程の石塊のようなものが出来上がった。

それをすやすやと眠るブースターの頭上、天井すれすれに位置させる。

ふっと技の支えを失った石塊が重力に引かれて落下していった。

ごっと鈍い音を立ててブースターの首ががくんと落ちる。

かっと見開かれた目からは血の涙が溢れ、鼻と口からはつぅと血が流れ出す。

石塊が引き上げられるとその下敷きになっていた頭部は軽く窪み、

体毛の隙間に見える亀裂からは血が溢れ出していた。まだ辛うじて息はあるようだ。

引き上げられた石塊が再度落とされる。今度は腹部だ。

ぐじゃりと妙な形に体が仰け反り、ごぼりと血の塊が喉の奥から吐き出される。

圧迫されたことにより、水分の抜け切れていない血液混じりの半消化物が肛門から飛び出した。

その上、失禁もしたらしく、排泄物の上に尿が広がっていく。

石塊が再度頭部に落とされると亀裂が広がり中から脳が飛び散り、

眼球が飛び出、口からは血と唾液、胃液が混じった泡が吹かれていた。

完全に絶命した後も石塊は執拗に何度も何度も落とされ続けた。

風鈴に止めるよう言うと、血や肉片がべっとりと付着した石塊は小部屋から引き上げられた。

そこにはミンチ状になった元ブースターが横たわっていた。

どんな状態であれ、「永眠」できたのだからブースターとしては幸せなのではなかろうか。

そういう意味ではブースターにとって私は神なのかもしれないな。

5日目。もうこのイーブイズに取り組んでから丸々五日が過ぎている。

私としては別にかまわないが、これを続けて観るDr.Oはさぞかし疲れることだろう。

まぁ、良い…さて、気を取り直して。次はエーフィだ。

自分の立場も後先もまったく考えずに、常に高飛車に振舞う。

不機嫌そうな表情を浮かべつつ狭い部屋、餌・水の質、部屋の内装にまで

嫌悪感を示し、それでも空腹や眠気には勝てず、嫌そうに食事や睡眠を取る。

なるべく爪先立ちをして歩いている姿にはさすがにかちんときた。

奴が一番五月蠅く言うのは照明だ。自称光の化身のエーフィとしては暗すぎるらしい。

…お灸をすえなければならないな。

空腹を感じたのか、餌入れから嫌そうに餌を少しずつ食べる。

実はその餌に、ここに居ればいくらでも手に入る「ナゾのみ」を混ぜ込んである。

辛いものが好物の者でも一滴も舐めたら嘔吐し拒絶するほどに進化した「ナゾのみ」だ。

一口口に入れた瞬間に慌てて吐き出し、いつもの威厳はどこへやら、

舌をだらんと垂らし、半泣きで無様に水入れへ舌を差し入れる。

普段なら少しだけ出した舌を丸めてすくうように舐めるのだが、

今はそんな余裕は無いと、べちゃべちゃと汚らしく飲み下している。

相当辛かったらしく、皿についた小さな水滴まで一滴残らず舐め取っていた。

舐めとってくれるとは助かった。確実に致死量の毒が体内に入ったということなのだから。

その水の中に仕込まれていたのはアジンホスメチルだ。

好都合なことに、無様な様子を晒したことにのみ気が向き、

気まずそうに苦々しげな目を向けるエーフィには、これから自分に

アジンホスメチルの毒牙が襲いかかろうとしているとは夢にも思っていないらしい。

ようやく辛さが和らいだらしく、傷がついたプライドを癒すように

皿をちろちろと舐めるエーフィの口からたらたらと唾液が滴り落ちる。

不思議そうに皿に落ちた水滴と天井を見比べ、自分の口から落ちたとは認めない。

カメラの方を気にしつつ、雨漏りだというようにぎゃぁぎゃぁ騒ぐ。(唾液分泌過多)

その内滴り落ちるのが口からだけではなく体中からに変わる。

汗まみれの顔では高慢なプライドに触るのか、カメラから顔を背け、

カメラの死角である隠しカメラの前に陣取った。

必死の表情でだらしなく汗を流すエーフィの姿がアップで映っている。(発汗)

そのカメラに映るエーフィの瞳がすぅっと窄まり、照明が落ちたかのように暗くなる。

好都合とばかりに汗を振り払い、自分を映すスポットライトを点けろとばかりに

部屋の中央に躍り出る。その姿は汗にまみれ、間抜け面を披露している。

視界も狭まり、その目には自分の姿もまともに映っていないのだろう。(縮瞳)

部屋の中央で騒いでいたエーフィがいきなり体を曲げ、静かになった。

前足で頭を抱え込み、呻き始める。しかし、すぐに顔を上げる。

その眉は多少顰められているものの鼻で笑い飛ばすような表情を浮かべている。

何とも無いはずはないのだが、肥大したプライドがそうさせるのであろう。(頭痛)

脂汗を流しながらも背筋を伸ばして微笑む姿から一転して、

目を閉じ、ふらふらとよろけ、倒れそうになる体を無理やり支える。

重くぐらつく頭を前足で押さえつつも体勢を立て直し

萎えかけている足を庇うように座りなおす。(めまい)

まだプライドが崩れないと見えるが、胃を押し上げる内容物に顔を青くする。

口元を押さえ顔を顰めるがカメラから顔を背けることは忘れていない。

気づかれまいと少しずつ砂トイレの方ににじり寄る。

部屋のど真ん中でぶちまける事だけは何としても避けたいことだろう。(吐き気)

ぐうっと強く呻くと腹部を押さえ蹲ってしまう。

その口からは押さえられた呻き声が漏れ出し、聞かせまいとする意思だけは伝わる。

すでに胃を揉みくちゃにされるような痛みに頭を掻き回されるような痛みが重なっている。

転げまわるほどの痛みを抑えられるとは、それほどの意地を張れるのはさすがだ。(胃痙攣)

痛みで蹲っていたため、砂トイレに着く前に胃の中身が食道をせりあがってくる。

エーフィの実感に反して動けていたのは部屋の中央から少しずれた程度の場所で、

結局はカメラに吐き出すシーンが丸々映ってしまった。

その恥辱に悔し涙を流し、抑えようとした吐瀉物を鼻から噴き出していた。(嘔吐)

汗に涎、さらには吐瀉物で顔をべちゃべちゃに汚してプライドを傷つけられ、

悔し涙で頬を濡らすエーフィを更なる辱めが襲った。

腹の鳴る音と抑えたために長く続く放屁音その汚い不協和音が部屋に響き、

顔を真っ赤にしながら我慢に我慢を重ねた便が漏れ出していた。(下痢)

プライドをずたずたにされ、狂ったように汚物をかき混ぜるエーフィの顔には、

壊れた笑みと何も映さない瞳が配され、三日月形に開かれた口の中に汚物を運んでいた。

その呼吸が不規則になるのは汚物をぐちゃぐちゃと咀嚼し、

飲み込み続けることだけが原因ではないようだ。(息苦しさ)

その不規則な呼吸音もぜぇひゅぅと妙な音が混じりだすも、

口の周りだけではなく体中に汚物をべちゃべちゃと擦り付け、

美味そうに排泄物と吐瀉物の混合物を味わう幸せそうなエーフィの顔には、

苦しそうな気配は微塵も感じられないほどであった。(喘鳴)

汚物を弄んでいた前足から汚物が取り落とされ、萎えた後ろ足で体を支えられなくなる。

突っ張るように引き伸ばされた四肢は筋肉が張り、痛みが伝わっているはずだ。

しかし、四肢の攣りには痛みを感じたというよりも、汚物で遊べないことの方に

辛そうな表情を浮かべ、口から垂れ下がる舌で床を名残惜しそうに舐めていた。(筋痙直)

身体中が小刻みに震えだすも、すでに壊れていた表情は大した変わりようも見せない。

壊れた玩具のように口と肛門から汚物を垂れ流しながら、汚物の中をびくびくと跳ね回る。

酸素の足りなくなったぼんやりした頭では大したことも考えられていないだろう。

この姿を以前のエーフィが見たらと想像するだけでも楽しいものだ。(筋痙攣)

一瞬瞳に光が宿り、絶望、悔しさ、恥辱、怒りなどの色が浮かぶがすぐに消える。

最後に浮かんだのは悲しみの色だったのだろうか、煌く涙が一滴頬を伝い、

それを最後に瞼は閉じられ、あるかないかの意識も闇に塗りつぶされていく。

壊れたプライドも消えかけていた意志も全て闇に彩られていった。(意識喪失)

エーフィの高慢なプライドをずたずたに出来たことに私も風鈴も満足が出来た。

最初の威厳ある姿も今や汚物と見分けがつかないゴミと化している。

止めは風鈴の技で汚物を口から流し込み、肺一杯に詰め、

酸素を絶つことによって窒息死にしてやった。

気管という本来、気体以外のものを取り込まない部位に、

どろっとした半液体状の汚物がずるずると流れ込む。

その途端、閉じられていた目がばちっと見開かれ、白目を向き、泡を吹いた。

ごぶっごぼっとはいから押し出された空気を濁った音と共に吐き出し、

無意識に喉を掻き毟りながら死んでいった。

爪を立てていたため喉の皮膚はずたずたに裂け、肉は千切れ、血で真っ赤に染まっていたが、

最期にあれだけ汚物を食べることに歓喜していたのだから文句は無いだろう。

完全に生ゴミになったエーフィの処理は後回しだ。

満足のいく出来栄えに滅菌・消毒室から出た風鈴と談笑しつつ帰途についた。

6日目。今日は先日から用意していた三匹に結果が出ているはずだ。

折角楽しみにしていたのだからゆっくり順々に見ていこうか。

まずは軽い症状しか出ないように調整してきたブラッキーだ。

その性格も手伝って、毒入りの食物を少量しか食べずに我慢してきていた。

そのため、本当に軽い症状しか出ないよう、調整するのが楽だった。

こいつの部屋だけは真っ暗なので、カメラは暗視カメラだ。

照明は特に強度のあるものにしていなかったのが災いして、

暗闇を好むブラッキーが餌入れをぶつけて壊してしまったのだ。

破片は、急遽麻酔薬を空気に混ぜて眠らせ、怪我をしないうちに取り出した。

悪いことをしたものには当然待っているものがある。お仕置きだ。

当の本人()は暗闇の中で精神安定を得、感覚を研ぎ澄まし脱出の方法を考えているようだ。

ちなみに、餌に混ぜていたのはシャワーズと同様クロルピリホス。

しかし、一度に与える量も全体の量も圧倒的に少なくしてある。

眼光鋭く、思案に耽るブラッキーの頭にぼんやりとした霞が掛かるようになる。

ぴんとしていた黒い耳もへたりと下ろされ、小さく溜息をつく。

目もとろんとしていて、眠気は無いようだが疲れが体から力を奪う。

体を振るい、一旦しゃっきりとするもすぐに元の状態に戻ってしまう。(倦怠感)

冷静に原因を考えようとしても疲れで働かない頭ではそれも叶わない。

周りを見渡すと暗闇の中で何かが蠢いているようにも見え、

どこからか叫び声、呼び声、呻き声、囁き声などのコエが聞こえる気もしてくる。

実際にはそんなことは無くただ心の中にもやもやしたものが残るばかりだ。(違和感)

止めど無く溢れる考えに押し流されそうになる弱体化した意思をどうにか持たせ、

頭をぶんぶん振り回すが、余計にくらくらし、痛みも発生する。

最初はずきっとするだけだったが、じわじわと痛みの範囲も大きさも増す。

考え事が出来るほど甘い痛みではなくなりつつある頭を抱えてしまった。(頭痛)

ぐらつく頭でどうにか冷静に分析をすることを試みるが、

考えようとした途端に視界が一瞬暗転する。周りの闇よりもなお暗く冷たいヤミ

その中に落ちかけるが何とか持ち直し、かくんと倒れた首をのろのろと起こす。

その暗視スコープのような目に映るのは安心できる闇だろうか不安なヤミだろうか。(めまい)

細く震える息で頻繁に呼吸しつつ、眉を顰め、目を硬く閉じながら体を丸める。

よく見ると艶やかな黒い前足で胸の辺りをきゅぅっと押さえている。

頭と違い、胸には痛みはないようだが、苦しいのだろう。

堪えるために噛んだ下唇から鮮血が一滴つうっと流れていった。(胸部圧迫感)

ヤミとその中に潜む姿の見えないコエの主がブラッキーの精神力を

少しずつ削り取っていく。痛みを押さえ込み、薄く開けられた瞼の隙間から覗く目は、

虚空を彷徨い、その瞳は恐怖に彩られている。

考えようとしても大きく響く頭の痛みで思考がまとまることは無い。(不安感)

とにかく動いて逃げ道を探そうと思い立ったのか、すっと立ち上がるが、

くらっとふらついたかと思うと、すぐにぺたんと座り込んでしまった。

座る一瞬前に前足がかくんと力を失ったのが見て取れた。

小刻みに震える足をブラッキーは戸惑ったように見つめていた。(軽度の運動失調)

四肢の震えを押さえ込むために体の下に四肢を折り込み、

体を丸めて苦痛に耐え、逃れようとするブラッキーを嘔吐感が襲う。

胃が収縮し、先ほど食べた半ばまで消化された食物が食道を逆流しようとする。

口まで出掛かる消化物を無理やり飲み下し、涙目になりながら耐える。(嘔気)

ふっと眩暈がして気をとられた瞬間に、せりあがった消化物が口から溢れ出た。

一度出てしまったものはもう止められない。後から後から押し上げられる消化物。

びしゃびちゃと汚らしい音を発しながら落ちる吐瀉物に涙を流しながら反動に耐える。

全部出切っても胃を?まれるような衝撃に体を震わせ唾液と胃液を吐き出し続けた。(嘔吐)

口を開けたままで咳き込みながら口にこびりついた胃液の嫌な味を消し去ろうとする。

その口からはだらだらと唾液が流れ、嫌な味を払うことには成功したが、

今度は唾液が止まらない。最初の冷静さはどこへやら、焦って飲み下す。

すぐに我に返り、きっとカメラを見据えるが体中を苛む苦痛に顔を伏せてしまった。(唾液分泌過多)

伏せた顔から滴り落ちる水滴。それは唾液でも涙でもなく汗であった。

それに気づいたブラッキーもふるふると首を振り、汗を振り払うが、

だらだらと溢れ出てくる汗に対応しきれるはずも無く、振り回していた頭を押さえて、

蹲ってしまった。どうやら痛みと眩暈が悪化したらしい。…当然だ。(多量の発汗)

ぐるるるるうぅぅぅと大きな音がしたかと思うと腹を押さえて顔を赤くした。

その顔が赤から青、白へと変色していく。歯を食いしばって耐えていたが、

とうとうそのダムが決壊してしまった。ごろごろとなる腹をくっと押さえると、

その力の均衡が崩れ、液状の便がガスと共に噴出し、排泄が開始された。(下痢)

途切れ途切れに噴出し、流れ落ちる便と、羞恥に顔を高潮させ、悔し涙を流すブラッキー。

その表情がさらに苦痛で歪む。排泄しきった腸と先ほど空になった胃を鋭い痛みが襲う。

きりきりと締め上げられるように痛む腹はぐるぐると音を発し傍目から見ても、

びくびくと痙攣する腹部が見て取れた。その腹を抱え、丸まってしまった。(腹痛)

弱弱しく薄く開かれた瞼の奥の目は周りの闇の濃さに見開かれた。

先ほど恐怖したヤミに周囲の闇が変化を遂げてしまっているのだ。

かちかちとなる歯と恐怖の色を色濃く宿した彷徨う瞳、小刻みに震える身体。

その全てが冷静さを粉々に砕かれたブラッキーの精神状態を表していた。(縮瞳)

恐怖しか宿らず、被害妄想に捕り憑かれ、コエヤミに支配され、

動くこともままならなくなったブラッキーの心は完全に壊れてしまっていた。

もはやその頭で普通に何かを考えることなど出来はしないだろう。

私は部屋の気温調節のつまみを最低まで捻った。

急激に下がっていく気温に、焦点の合わなくなった瞳を彷徨わせるブラッキーは

今まであげたことが無いほど情けない、助けを求める声をあげた。

しかし、そこから動こうとはせず、吐き出される白い息を目で追っていた。

艶のある漆黒の毛並みに霜が降り、恐怖から来る震えが寒さからに変わり、

意思は無いが、毛を逆立てて僅かでも暖を取ろうとする生命の本能に感心させられる。

尻尾の先や指先に凍傷が起こり、徐々に壊死をし、どす黒く変色した部位は、

根元からころりと落ちてしまった。そうなる頃にはすでに四肢には感覚が無く、

長い鼻や耳も取れかけ、間抜けなゾンビ顔へと変貌を遂げていた。

風鈴にシャワーズの部屋の注水装置をこの部屋へと付け替えてもらい、

水を少しずつ流し込んでいく。床に流れた水は室温より高いため、

ブラッキーの体に僅かながら暖かさを与えるが、すぐに凍りついた。

床から注水するための穴が氷で塞がれたため、上からに切り替える。

唐突に降り注ぐ水滴は急激に冷やされ、氷の粒と水の粒、半々ほどになり、

ブラッキーの体を撃った。その鋭い痛みに、声帯が凍り空気の冷たさで出ない声を振り絞り、

小さな悲鳴を上げる。冷やされて強張った皮膚は少しの衝撃で簡単に傷つく。

小さな氷の粒が、凍りつきかけている毛皮の上を滑るとその線に沿って、

すーっと皮が開かれ、薄桃色の肉が曝け出される。

しかし、冷凍庫並みに冷やされた、この部屋の中では血が出ることも感覚もほぼ無い。

徐々に床に溜まっていく氷だが、逃げようとしても、四肢を氷で固められたブラッキーは動けない。

その寒さで眠気を催し、ほんの少し意識を飛ばした隙に、首の下まで凍ってしまっていた。

くたりと首を倒していたため、顔の皮が凍りに張り付いてしまっていた。

張り付いた皮膚を無理やり引き剥がすと、凍りついた皮膚が氷に持っていかれ、

べろんと剥がれてしまった。瞼も張り付いてしまい、目を開くことも出来なくなった。

喉、口、鼻と埋められ、凍り付いていく。とうとう頭まで凍りつき、氷の彫像と化した。

まるで眠っているようなその姿はアートとして飾っておきたいほどであった。

さて、お次はリーフィアだ。こいつの餌と水にはサンダースと同じメチルジメトンを、

ブラッキー同様少量ずつ混入してある。しかし、暴れまわるため消費カロリーも汗も多いのだろう。

頻繁に、量も多めに摂取していた。そのため、ブラッキーより大量な毒素が取り込まれたようだ。

性格も考慮して、当初の予定より少なめにしておいたのが功を奏した。

そうでなければ多量に摂取しすぎて、サンダースと同じ末路を辿ることになっていただろう。

最初は元気いっぱいに跳ね回り、新しい部屋やカメラにも興味津々だったが、

その内、ブラッキー同様の症状に悩まされるようになってきた。

完全に元気を無くし、ぐったりとしているその目には光は宿らず、

迫り来る恐怖にも精神が麻痺して慣れてしまったようだ。(軽度の諸症状)

下痢などにも躊躇する様子を見せなかったリーフィアだが、

暴れまわることが出来ないことに心底落胆している。そこにさらに追い討ちがかけられた。

舌がぴくぴくと震えだした。舌を垂らし、脱力しきった目で不思議そうに見ていると、

四肢がぶるぶると痙攣しだしたのだ。疲れきったリーフィアはどうしようもなく戸惑っているしかなかった。(筋繊維性攣縮)

震えだした四肢を抑えることもできず、全身の苦痛があるため、起き上がることもできない。

それでも、立ち上がり、水分を取ろうと歩き出す。しかし、それさえ不可能だった。

他の症状があるにしても、ふらつき具合が尋常ではないものになっていた。

転がりまわったために、汚物に塗れた体がどうと倒れ、動かなくなった。(歩行困難)

最初の映像では名前と同じような鳴き声をあげていたが、

今では獰猛な獣の唸り声にしか聞こえないような意味を成さない声をあげ続ける。

だらりと垂れ下がった舌は床を舐め、泡と唾液と胃液、少量の吐瀉物の混じったものを吐き、

喉の奥から水音混じりの唸り声を搾り出し、必死でなそうとする言葉は霧散した。(言語障害)

掠れた声を張り上げ、意思を伝えようと懸命だったが、しばらくすると唸り疲れ、

ぐったりと横向きに倒れていたリーフィアがふと目を天井へと向けた。

霞み、暗くなっていた視界がさらにぼやける。遠くまで見通すことができた目も、

近視。それも重度の近眼に成り果て、細めても照明の形を判別することさえ難しくなっていた。(視力減退)

低下していく脈拍。すでに動くことを放棄し、生きることすら諦めかけているリーフィア。

その意識はすでに飛び飛びになり、目は虚ろで生気の欠片も感じられない。

汚物の海の中で出せるものは全て出しつくしたリーフィアの顔は、長い舌で床を舐め、

半目で白目を向き、鼻水、涎、涙、吐瀉物等を出し、排泄物に塗れた悲惨なものだった。(徐脈)

元気だった頃の面影はさっぱり無く、生きる気力も無くした者にも最後くらいは足掻いてもらおう。

小部屋に入った風鈴に合図をし、尻尾の先にライターで火を点けさせる。

風鈴の姿も捉えられなくなったリーフィアにはまったく気づかれずに事を済ませた風鈴はすぐに引き上げた。

火が点いた事に一瞬遅れて気が付いたリーフィアは虚ろだった表情に生気を取り戻した。

慌てて尻尾の方を見るが先の方は炎に包まれ、じわじわと体に近づいてきている。

目に入り、理解した瞬間、強い痛みの感覚が脳へと辿り着いた。

急いで震える足で尻尾に触ろうとするが熱くて触ることもできず、

尻尾を振り回し、床に叩きつけ、火の勢いを弱めようとする。

…火を消すことだけに気をとられていたリーフィアは気づかなかった。

石油がじわじわと床に広がっていたことに。

シャワーズ、ブラッキーのときに利用した床からの給水設備に、

石油の入ったタンクを繋げ、少しずつ注入していたのだ。

気づいた頃にはもう遅い。尻尾を叩きつけた先にあった石油に引火し、

一気に燃え広がった。部屋の中に広がった火の海に、恐怖する。

尻尾の炎は付け根辺りまで燃え広がり、先の方は焼失していた。

付け根にある太い神経に炎が達し、今までに無い脳を焼くような痛みに転がった。

その転がった先にあったのは大きな炎、石油が注入されていた石油だまりだった。

頭にある葉や、耳の先、四肢から出る葉のような部分はすぐに燃え尽き、

そこの方に残っていた酸素に触れていない石油が付着したクリーム色の毛皮に、

あっという間に炎がまとわりつき、ちりちりと毛を焦がし、皮膚に到達する。

炎の中にいるために奪われる酸素に酸欠状態に咳き込み、取り込む熱風に喉を焼かれる。

朦朧としそうになる意識も熱さと痛みで強制的に覚醒させられる。

…見づらくなってきたので一旦消し止めるとしよう。

スプリンクラーからは冷たい水が降り注ぎ、火が消し止められた部屋の隅には、

体からぷすぷすと煙を上げながらびくっぴくんっと痙攣するリーフィアの姿は、

真皮を焦がされ、爛れさせられる。重度の火傷に眼も当てられないほどの惨状だ。

顔は唇が半分ほど燃え尽き、歯がむき出しに、瞼も片目は辛うじて残っているが、

もう片目は燃え尽きて、眼球が熱で白く濁ってしまっている。

全身は炭化している箇所もあり、生きているのが不思議なほどで、

生き物の生への執着、最後の足掻きが見られて満足だ。その命は風前の灯。

折角なので、綺麗に吹き消してやろう。スプリンクラーのスイッチを入れる。

そこから霧状に噴出したのは水ではない。石油だ。空調からは酸素が流れ出す。

燻っていた残り火が見る見るうちに勢いを取り戻し、ごうっと爆発的に燃え上がる。

ぎやああぁぁぁぁ…と断末魔の叫び声が、あの状態で出せるのかと思えるほどの声が、

スピーカーから響いた。業火の中で踊り狂うリーフィアの影がちらりと見え、

崩れ去った。酸素の供給をやめ、鎮火された黒焦げの小部屋の中には、

生物がいたという痕跡は何も残っていなかった。

最後はグレイシアだ。最初の頃の映像を見ると、何かをして欲しいと訴える奴がいないのだから、

さぞかし楽をしているのかと思いきや、つまらなそうに、悲しそうに俯いていた。

…あまり理解できない感覚だな。虐げられるのが嬉しいのだろうか?

グレイシアにとってはそれが生き甲斐だったのだろうから他人がどうこう言うことではないのだろうがな。

カメラを見つけると尻尾を振って何か命じてくれないかとでも言うようにきらきらと目を輝かせていた。

しかし、何の反応も見せないことに少し肩を落としながらも、こちらが気にしないためか、

明るく見えるような微笑をこちらには向けていた。

ちなみに、こいつの餌にはブースター同様アジンホスメチルを混ぜてある。

餌を貰っても遠慮するくらいなので大量に摂取させるのは難しかったが、

早い時期から与えていたためどうにか間に合った。

カメラに背を向けてつまらなそうに水を舐めるグレイシアの瞳が見開かれる。

驚愕に彩られた目はきょろきょろと彷徨いながら明かりを求めようと上を見上げ、

その光が目を細めず、普通に見られることにさらに驚く。ぼんやりしていたが、はっとし、

何事も無かったかのように取り繕った、不自然に強張る笑顔をカメラに向けてきた。(縮瞳)

唐突に光が力を失ったことに対する驚きも手伝って、心臓の拍動が大きく、早くなっていく。

荒くなる呼吸、滴る汗、どれもが体の不調を訴える。しかし、食物を疑うことなど考えにすら上らない。

何故なら誰かからわざわざいただいたものだから。力が強すぎる血流に耐えかねた血管が破れ、

内出血が起こってもその部分をカメラから隠して、笑顔は絶やさなかった。(血圧上昇)

その笑顔が突然苦しそうに歪み、体を折って咳き込みだした。

咳き込む音はごぼっがはっと水音が混じっている。肺の中に水が溜まってきたようだ。

ぜぇひゅぅと肩で大きく息をしつつ、時折激しい咳に苦しめられる。

酸素がまともに吸えずに呼吸困難にもなりかけているようだ。(肺水腫)

海老のように曲げられていたグレイシアの体が、突然電流を流されたかのように、逆に反らされ、

がくがくと震えだす。痙攣に耐性の無かった体は、大きく震え、白目を向き危ない状態だ。

舌だけは噛まないように、こめかみ辺りから両頬に垂れ下がる触角のようなものを口の中に放り込むことにしよう。

しかし、根元から千切るとその痛みで、我に返ったようで吐き出し、涙を零しながら胃の中身を吐き出していた。(全身痙攣)

横向きに倒れ、口から泡交じりの消化物などを垂れ流しながら、痙攣に対する抵抗をやめていた。

その目は虚ろで、咳と痙攣により消耗させられた体力と常時緊張状態にあった精神が崩れたことにより、

痙攣で強制的に伸縮させられる他は体からは全ての力が抜けきっており、下腹部は尿が垂れ流されたことで、

艶やかだった毛並みはぺったりと皮膚に張り付き、汚れてしまっていた。(失禁)

機械の調節をしてくれていた風鈴を呼び、グレイシアの瞳にライトを当ててもらうが、

その瞳孔は開かれたままで収縮する気配は感じられなかった。意識は無いのだろうが、

もしあったとしたら非常に眩しく、目が慣れることも無いのだから視力に異常をきたすことだろう。

そこだけ見ると死体だが、体が時折ぴくぴくと動くことから生きていることが判別できた。(対光反射喪失)

脳波を測定している機材に目を向けると、意識は既にないようで、死の世界に入りかけているところのようだ。

肺水腫により呼吸が、痙攣により心臓がこの僅かな時間で役目を放棄せざるを得ない状態に陥らされていた。

辛うじて燈っている命の灯もほんの少しのきっかけでふっと消えてしまう。

当のグレイシアは自分の命がそのようなことになっているとは思ってもいないことだろう。まぁ、思考自体できないのだが。(意識混濁)

グレイシアの意識は暗く深い闇の中へ沈んだ。もう何をしても起きないだろう。

丁度良い。前々から無反応の奴に試したかったことがあったのだ。

風鈴に指示を出し、脱力しきったグレイシアをケースの外に出す。

「サイコウェーブ」で体に傷をつけずに体毛のみを刈る。一筋も血が流れることは無かったのはさすがと言うべきだろう。

意外に弾力のありそうな皮膚を晒すグレイシアの体をケースの中に横たわらせ、

風鈴に「どくどく」をするよう指示を出した。毒の正体はこの施設でもポピュラーな硫酸だ。

少し皮膚の上に垂らすとしゅわーと泡が発生し、皮膚が溶け出していく。

よく知らない者だと一滴でも垂らせば反対側まで貫通するのだと思っているかもしれないが、実際はそうではない。

どんなに強い酸でも、それ自体より酸性が弱いものとなら中和しあい、終われば反応も止まる。

熱湯と冷水で温かい湯が作れるのと同じ原理だ。冷水に一滴の熱湯では足りないのだから。

そんなことを考えているといつの間にか反応が終わっており、ぽつりと小さな穴が開き、じわじわと血が滲む。

相手は暴れることも無い。じっくりと時間をかけながら塗布することにしよう。

横たわり、浅く上下する脇腹に硫酸を薄く広げる。じゅわぁーっと泡で覆われるが、

その隙間から見える皮膚はどんどん赤く変色していっていた。

表皮も真皮も溶け、所々に筋肉が現れる。血があふれ出し、心なしか顔色が悪くなったように思える。

まだ溶けきっていない部分も布で拭うとずるりと布の方にへばりついて剥けてしまった。

布にはぷるぷるとしていて半ペースト状になった赤とピンクの斑な肉が付着しており、剥けた部分からは大量の血液が滲み出てきた。

筋肉にも塗布するとじゅわじゅわと酸が筋肉に絡みつき、溶かし爛れさせケロイドよりなお酷い状態へと変貌させていった。

筋肉、骨と着実に蝕んでいく強酸。その行く先には内臓があった。

すっかり人体模型のような状態になり、若干爛れた腸をはみ出させながらゆったりと呼吸を繰り返すグレイシア。

水音が混じるが大して気にもならなくなり、迷い無く硫酸が塗りたくられた。

表面に流れる血液や内部に溢れる体液などの水分と反応して高熱を発し溶かしていく。

ふと目を移すと、体内に見慣れない器官を見つけた。どうやらそこで氷を精製しているらしい。

風鈴に言うと、私と同じことを考えたらしい。その袋の中に硫酸を流し込んだ。

中にある大量の水分と反応し、湯気が上がるほどの高熱が発生し、

破れてあふれ出した酸性の熱湯は周りの内臓を溶かし、茹で上げてしまった。

肺や心臓も茹で上がり、眠るように死んでいった。腹部が溶けるのを夢の中ででも見ていただろうか。

決壊した鍋のような腹部を晒す安らかな表情を浮かべた骸を残し、グレイシアはあの世へと旅立った。

これで全てが片付いた。いや、最後に大仕事が残っていた。死体の処理だ。

処理班に任せればいい話だが、ただそれだけでは面白みが無いな…よし、これでいこう。

風鈴に最後の仕掛けを施してもらい、こちらの部屋に戻らせる。労いの言葉もそこそこに、モニターの前で成り行きを見守る。

モニターの片隅に移る拡大画像には黒い画面上、電子音を響かせながら赤い数字がめまぐるしく変わる装置が映し出されている。

最後の仕上げにするのは爆散だ。彼らには私なりの弔いの方法と受け取ってもらおう。

文字盤の数字が左から順に0になっていく。一番右端の数字が0に変わった瞬間、画面が白い光に包まれた。

即座にカメラの偏光装置が作動したが、それでも眼が眩んだほどの爆発であった。

強化ガラスも吹き飛ばせるほどの爆発をさせようと思ったらこれほどの規模になってしまうのは仕方が無いがね。

後に残ったのはケースの破片や給水装置などの部品が壊れたもの。

肉片や血飛沫は蒸発してしまったようだ。無理だとは分かっていたが、壁に張り付く肉片を見たかったものだ。

膨大な量にのぼった報告書をざっと纏め上げた頃には普段の帰宅時刻を大幅に過ぎていた。

慌てて帰る道すがら、改めて風鈴に労いの言葉、礼や称賛などを伝え、最後にこれからもよろしくと言うと、

目に私と同じ暗い光をともしながら暖かい微笑を返してくれた。

これからも頑張れそうだ。…目下の課題は夕飯の支度と娘の文句だが。