今日は、風鈴監修の元、チリーンにのみ聞こえる音波はすべて解読し、

私の声をその音に変換する装置もスピーカーに取り付けた。

これで、実験体に知られずに指示を出すことも可能だ。

準備を済ませたところで、早速、風鈴に一仕事してもらいたいと思う。

研究体棟から連れてきたミミロップで、小手調べといこう。
 

今回連れてきたミミロップは雌で、子供を身ごもっている。

腹のふくらみがそれほど目立たないため分かりづらいがすでに6ヶ月だ。

旦那から無理やり引き剥がすときは苦労したが、

連れてきてしばらく経った今では怯えて大人しくなっている。

最初は半狂乱で暴れまわったが、後は放心状態で、正気に戻るまで退屈だった。

その退屈な時間は旦那の方を熱した鉄板の上で踊らせて暇をつぶしたのだけれど。
 

すっかり静かになったミミロップの元に風鈴を送り込む。

いきなり開いた扉に驚いて飛び退くミミロップだが、

風で移動する、のんきで弱そうなポケモンが入ってきただけと知り、

ほっと胸をなでおろし、それが抱える袋に目を移した。
 

風鈴に持たせた袋の中にはポケモンフードが入っており、

おいしそうな匂いを漂わせている。

腹に子供がおり、しかも暴れていたことで、欲しがるミミロップと、渋る演技をする風鈴。

ささっとミミロップが動き、風鈴の持つ袋を奪い取った。

あえて取らせてやったことも分からないのか、

隙を突いたと思い込み、誇らしげに袋を開ける。

悔しそうな泣きまねをする風鈴にかまわず袋を逆さまにし、一度に頬張ろうとする。

その瞬間、風鈴に毒を飛ばさせ、餌に付着させた。

十数mgほどの重さの増加には少しも気づかず、

餌を咀嚼し、風鈴に見せ付けるように飲み込んだ。
 

先ほど付着させた毒はニコチンだ。タバコにも含まれている成分で、

強い毒性を持つ。人間であれば3060mgで死に至る。

これを見て不思議に思うかもしれないが、風鈴の「どくどく」は汎用性があり、

一度構成成分などを理解した毒物であれば体内で合成することが出来るのだ。

さらに、餌の中には体内からさまざまな数値が測定可能なマイクロロボを混ぜておいた。
 

先ほどの弱そうな態度とは打って変わって不敵な笑みを浮かべる風鈴に、

ミミロップは怪訝そうに首をかしげる。
 

その様子を目の端に入れつつ私も移動し、実験室の方に足を踏み入れた。

扉が開き、私の姿が目に入った瞬間逃げ出そうとするミミロップを

面白く思いながら大笑いしている風鈴の頭を撫でてやる。
 

グルだったのかと、憎憎しげにこちらを睨み、腹を庇う様に座り込んでいる。

出来る限り優しげな口調で先ほどの餌が美味かったかと尋ねると、

警戒しつつも不思議そうにこくりと頷いた。

ここで、先ほどの餌の材料を明かしてやる。

入る際に運び込んでおいた大皿の上にかぶせてある蓋を外した。

そこには苦悶の表情が辛うじて判別できるかというほど焼け焦げたミミロップの夫が乗っていた。

しかし、あるのは胴体と頭のみだ。
 

実はダンスの途中途中に「サイコウェーブ」でじわじわと耳と四肢を切断していったのだ。

ひどく耳障りな叫び声をあげつつも丸焼きにはなるまいと、

飛びそうな意識を無理やり繋ぎとめて飛び跳ね続けたのだ。

達磨状態になって跳ねる体力も切れたころ、自ら舌を噛み切り自殺した。

その心意気に打たれてポケモンフードとして妻の体内に入ることで再会させてやったのだ。

切断されていい具合に焼けた耳と四肢をミキサーでミンチ状に、

それで作った肉団子をこんがり焼き上げ、ポケモンフードに混ぜたのだ。
 

それを見てミミロップは泣き崩れ、

旦那を食べてしまったという事実に真っ青になりながら

嫌悪感から吐き出そうとする。

しかし、風鈴がそうさせない。

「サイコキネシス」で胃と食道の境目辺りを窄まらせ、封鎖したのだ。

吐きたくても吐けない感覚に、苦しそうな呻き声を上げながらただただ泣き続ける。

いい加減うるさくなってきたので、風鈴に命じ、無理やり消化を早めさせた。

しっかり消化されていない食物が胃の中でかき混ぜられ、

腸の内壁にへばりつき、吸収されるまでずるずると進む。

小腸の出口まで来たかと思うと、念のためともう一度入り口までずるーっと引っ張られる。

そんなことを2.3度繰り返され、気が狂いそうになっているミミロップの様子に

もう少し続けたいと思いつつもやめさせる。

ぐったりと倒れ伏してしまったミミロップを置き去りにして

風鈴を見張りにつけて戻ることにした。
 

研究室に戻ると丁度ミミロップが起き上がろうとしているところだった。

無理やりそれを仰向けに固定し、口を開けさせた。

そこに、粘性の強い紫色をした毒々しい液体を流し込ませる。

ニコチンはほんの少ししか溶けておらず、

他は片栗粉と食紅を溶かしたただの水なのだが、

その見た目から完全に毒だと思い込み吐き出そうとするが、

呼吸をする間もないほどに延々と飲み込ませ続ける。

咳き込み、鼻から逆流させ、腹が臨月以上に膨れ上がったところで気絶した。

白目をむき、鼻と口から紫色のゼリーみたいなものを溢れさせる形相は

普段の可愛らしさからはかけ離れた醜悪な顔だった。
 

いきなり、見えない球体で押しつぶされるように腹がへこんだかと思うと、

鼻と口から盛大に紫色のゼリーを吹き出し、覚醒した。

風鈴が寝てるんじゃないと言うように両耳のみに「サイコキネシス」をかけて

全身を浮かび上がらせる。もちろん体重は耳の付け根にすべてかかる。

苦しそうに咳き込むミミロップの表情をうっとりしたように見つめ、

いきなり床に叩きつける風鈴の様子は普段とはまた違った魅力があった。
 

床の上でひくん…ひくんと小さく動くだけで完全に伸びたミミロップを

薄く笑う顔の中の冷たい目で見下し、

透明な音を響かせながら天井近くまで浮かび上がり、

そこに留まる。最前列での観察をするつもりのようだ。
 

ミミロップのほうに目を移すと、少しは体力が回復したのか

のろのろと体を起こし、不安そうに辺りを見回す。

とっさに隠れた風鈴には気づかなかったのか軽く目を閉じ、

鼻と口元を拭って仮眠に入ろうとしていた。
 

ようやく、ニコチンが効き始めたようだ。

仮眠に入ろうとしていたミミロップの呼吸が深くゆっくりしたものから

浅く早いものへと変化していく。

自分でも気づいたミミロップは閉じかけていた目を開き、

少し慌てたように目を泳がせる。(呼吸促進)

どくん、どくんと脈打つ心臓から押し出される血液は

強い血圧で押し出され、細かい血管では破れて内出血を起こしているものもある。

青黒く染まった皮膚をさらに青い顔で見つめながら

焦り、うろたえてしまっている。(血圧上昇)

ぴきっと音でもしそうなほどに脳波に異常が巻き起こり、

激しい痛みにとっさに頭と腹を抱えこむ。

ちゃんと腹も抱え込むところはさすが母親といったところか。

呻き声を上げながらも動き回って胎児に刺激を与えないようにもしている。(頭痛)

しかし、腹を押さえていた手を撫で擦るようにしたのは

子供のためだけではないようだ。脂汗をだらだらと流し、

ぎゅっと閉じた瞼や食いしばった歯からは必死で耐えている様子が伺える。

しかし、我慢していたこともあって酷く大きな腹の鳴る音が聞こえた。(腹痛)

羞恥に顔を真っ赤にしながらも再び襲ってきた腹痛に耐える。

今度はピンポイントで腸に来ているらしく、再び我慢をし始める。

溜まっていたガスの抜ける音が響き、羞恥を感じる間もなく、

漏れ出たガスと共に旦那の成れの果てが流れ出てきてしまった。(下痢)

激しい羞恥のために溢れ出る涙を拭う間もなく胃の方に痛みが上ってくる。

風鈴はそれを押さえ込むが、込みあがる吐き気が限界まで来たところで

ぱっと解除し、再び止める。何度も繰り返すうちに意識が朦朧として

半分気絶しつつ少しずつ出てきている吐瀉物を口の端から垂らしている。(嘔吐)

風鈴の飽きによってようやく胃の中を空っぽに出来たミミロップをさらなる激痛が襲う。

今までとは比べ物にならないほどの痛みに体を丸めて耐えようとするが、

足の間からは真紅の鮮血が溢れ、床を紅く染めていく。

腹はびくん、びくんと激しく脈打ち、胎児が暴れているのが良く分かる。(子宮出血)

とうとう未熟な胎児の頭が出始めてしまった。しかし母親の落ち着きというものだろうか。

ミミロップは生物の本能だけで産み落とそうとしていた。苦しそうに肩で息をし、

汚物の上に産み落とした子供は薄い膜に包まれ、辛うじて生きてはいるものの、

明らかに産まれて良い状態ではなかった。(流産)

と、いきなり手の届かない所まで浮かび上がる我が子。

すぐに必死で手を伸ばすが、紙一重の差で届かず、その手は空しく宙をかく。

子供を追う瞳は急激に収縮を起こし、伸ばす手も見当違いの方向になってしまっている。

目を擦り、瞬きを繰り返すが暗く狭まる視界は元に戻らなかった。(瞳孔縮小)

二つに増え、三つに増えて揺れ動く我が子の幻影。

風鈴の技では無いのだが、勘違いをして虚空を睨みつける。

痛みで萎えた足で必死に立ち上がり、ようやく我が子を捕まえるが、

その小さな体は腕の中で急激に冷たくなっていく。(重視)

光も捉えられなくなった目に頼らず、手探りで蘇生を試みようとするが、

そこに風鈴の「サイコウェーブ」が炸裂。頭部の右上が膨張し、吹き飛んだ。

眼球がぶら下がり、半分だけの脳をはみ出させ、下側のみの歯茎の上にだらりと垂れる舌。

その上を母親の手が撫で、気づいたミミロップはすとんと座り込んでしまった。(視覚障害)

半分だけ開いた瞼からは何の光も見出せず、開ききった瞳孔に映る無残な亡骸。

必死だったため忘れ去られていた痛みが襲うも放心したミミロップには意味が無い。

ごぽりと、吐瀉物と排泄物が溢れ、毛皮を浸蝕していく。

何も映さなくなった目からははらはらと涙が流れていた。(瞳孔散大)

ふらと、その体が大きく傾いだかと思うとどさっと倒れてしまった。

体を震わせ、けたけたと壊れた笑顔を貼り付け笑うが

その声も次第に聞こえなくなっていった。今のミミロップには関係ないが、

動こうとしても動けない状態になったのだ。(麻痺)

測定機器は脈拍、呼吸、血圧どれにおいても下降線を示し、

ぼんやりとした表情のミミロップからは生気が抜けていった。

天井近くから風鈴が降りてきて、体の下のひらひらしたもので

ミミロップの体の綺麗な部分を撫でて遊ぶが無反応だった。(徐脈、呼吸緩徐、血圧低下)

測定機器が危険を示す赤いゾーンに計測値が達し、エラー音を響かせる頃、

ミミロップの体はびくびくと跳ね出した。筋肉の収縮を示す値が、

激しく上下に振れ、先ほどのとはまた違うエラー音を響かせている。

汚物の上を跳ね回り、体中をべとべとに汚しまわっている。(痙攣)

痙攣も納まりかけ、響く音が計測値のエラー音だけになると、

表情筋の収縮で醜く歪んだ顔の中瞼がゆっくりと閉じていった。

ゆったりとした呼吸を繰り返す腹部から生きていることは分かるが、

それも少しずつ浅くなっていった。(昏睡)

じゃっという音が響き、ミミロップの胴体から頭部が切り離され、宙へと浮かんだ。

口元から一筋の血を流すその頭部からは、死んだことに気づいていないかのような

安らかな寝顔が浮かべられていた。…すでに死に顔となってしまったが。

両耳を左右に引っ張られ、「サイコウェーブ」によって頭蓋ごと切込みを入れられた頭部は、

いとも容易く左右に分かれ、ぷるぷるとした脳がずるりと引きずり出された。

脳に繋がった神経から、その先の眼球や三半規管、蝸牛等もぶら下がり、

それに張り付く筋も、芋づる式にずるずると引きずり出される。

くるりと逆さまにされた様は醜悪な薬玉のようだった。
 

実験室から戻ってきた風鈴を撫で、褒めると、

とても嬉しそうに目を細め、透き通った鳴き声を響かせてくれる。

…実は、妻の死に様を思い出してしまうため、妊娠中のものは

今まで避けてきていたのだが、風鈴がいるおかげだろうか。

少しも心の中に揺らぎが生じなかった。もちろん妻のことを忘れたわけではない。

今でも鮮明にあの頃の日々が思い出せる。

しかし、風鈴によって安定が得られたのは確かな事で、

風鈴はどうしても妻の生まれ変わりとしか思えない。

そんなことを考えているのを知ってか知らずか、

ころころと微笑んで、私のことを妻と同じ瞳で見つめていた。