他の研究員の使用も伴ってそろそろピチューの在庫が少なくなってきたため別のポケモンを使用することにした。
ここのポケモンたちは特殊な処理を施されていて技は使えないようにしているので、
大きめなポケモンに暴れられないかぎりどのようなポケモンにしても問題は無いが
私の好みにあったポケモンはなかなか見つからなかった。
実験体用の建物の中を歩いていると酷い騒音が響いてきた。
頭痛をこらえて見に行ってみるとプリンが他のポケモンの顔に落書きをしているところだった。
騒音の原因と思しきそいつの声を適当に褒めてやると胸を張って誇らしげにしている
…どうやら先ほどの騒音を「歌」だと考えているということは元から耳は悪いようだ。
今回はその『美声』を取り上げてやることにした。ステージを用意すると言うと大喜びで着いてきた。
手近にいた気絶中のピッピを鞄の中に入れることはもちろん忘れなかった。
不審に思われないよう特大のガラスケースの中を控え室に仕立て上げ、その中に座らせておいた。
喉の調子を確かめるように発声練習をしたり、鼻歌を歌ったりしている。
歌手気取りのプリンに特製コーヒーを作ってやることにした。
今回は元素記号As、原子番号33の半金属、砒素。その中でも毒性を持つ亜砒酸(As2O3 )を使うことにした。
冷水には溶けにくいが温水には良く溶け、無味無臭。なかなか扱いやすい。
特製コーヒーを持って行ってやると喜んで飲み干した。
かなり大量の亜砒酸を入れたためすぐにその効果は現れた。
喉と思われる部分をかきむしりながら声にならない叫びを懸命に上げようとしている。
(喉の渇き、食道の焼け付くような痛み、声が出なくなる)
水を求めて伸ばす短い手を踏みつけてやると大きな眼でにらみつけてきたので、
思わず髪のように垂れ下がっている部分を引きちぎってしまった。
そこからは生温かい血と体液が垂れてきたので手が汚れないうちに投げ捨ててしまった。
亜砒酸は胃に到達したらしく腹を押さえて転げまわっている。(胃の激痛)
この短時間で「ころがる」を覚えたらしい。私にもブリーダーの才能があるということころかな。
体を震わせながら先ほど飲んだコーヒーや胃液を吐き出している。(嘔吐)
頬を伝う血と涙を拭う暇も無く下り続けた亜砒酸は腸に到達し
腸が壊れたように水のような糞便を垂れ流している。(コレラ様の下痢)
その頃になるとあの丸々とした体は見る影も無くなっていた。
骨は浮かび上がり、体中血や脂汗や胃液でどろどろになってしまっていた。
匂いがきついので外に出て観察することにした。
外に出て鍵を閉めると扉まで這いずってくるプリンの姿が見えた。
這いずる途中に吐瀉物の中に顔を浸けてしまい、胃液が眼に入ったらしく眼を押さえてのた打ち回っている。
ついでに「あばれる」まで覚えたようだ。ブリーダーも捨てたものでもないのかもしれないな。
噴出しそうになるのを押さえつつプリンの観察を続けることにした。
うわごとを呟き痙攣しながらもドアまで這いずってくる根性は認めてやり、水をかけてやった。
もう手遅れなのは眼に見えている。
プリンは失神とうわごとを呟くことを繰り返しながら緩慢な死に至った。
その死に顔は胃液で溶けかけてしまっていてどのような表情をしているのか判断つきかねたのが今回の反省点だ。
次の実験に取り掛かるとしよう。
プリンの入ったガラスケースは別室のほうに移動させ、
鞄に詰めてきたピッピを取り出し、水をかけてやるとようやく目覚めた。
プリンが死ぬまでの一時間半、ゆっくり休めたことだろう。
ピッピには少しずつ亜砒酸を与える方法をとることにして、ガラスケースの中で生活させることにした。
ガラスケースの中に移すとなれない環境と水をかけられたことで
むっとした表情をしていたが、餌を与えてやると笑顔になった。
…どいつもこいつも食欲に負けるとはいくら特殊な能力を持とうが動物は動物といったところか。
それも下等な。
徐々に亜砒酸がピッピの体を蝕む様子を観察していった。
眠れなくなったようで夜うるさかったため
ガラスケースをがんがん叩いてやったらおびえて静かになった。(不眠)
体の末端部から上ってくる痺れにより動きが緩慢になっているので
指先をペンチでつぶしてやるとそこから流れる血には驚いたようだが痛みは感じないようで
ひどく混乱しているようだった。顔が面白かったため写真を撮ってやったが
全然気づいていないようだった。(多発性神経炎)
胃腸への障害が顕著になってきて腹を押さえて苦しむ様子が見られるようになった。(胃腸炎)
大して餌は食べないようになってしまったので、口に漏斗をあて無理やり餌を流し込んでやる。
すでに十分な量の亜砒酸は体内に取り込まれてあるだろうが面白いので続けてやった。(食欲不振)
糞便は垂れ流し状態になってしまったのでガスマスクをしてから蓋を開けるようにした。
それを見たときのピッピの恥ずかしそうな顔は一見の価値はあった。(下痢)
腎臓にも障害が出てきたらしく蛋白質や血が混じった尿がよく出るようになった。(蛋白尿、血尿、腎臓炎)
肝臓は肥大し、眼は充血し顔は暗紫色に、体のつやがなくなり黄色っぽく見えるようになった。
鏡を目の前においてやると何が動いているのかと不思議そうにしていたが
自分だと気づくと泣き出してしまった。(肝肥大、黄疸)
さらに症状は進行し、周りで起きていることに無関心になり、
ほとんど動かないようになってしまった。(知覚・運動失調)
つまらなくなってあまり見ていなかったが、
ほとんど動かないはずのピッピの体がいきなり妙な方向に曲がりだした。(筋肉の萎縮)
期待を込めて見ていると徐々に動きが弱弱しくなり死に至った。
ガラスケースの中の妙な物体はガラスケースごとプリンの入ったガラスケースの中に入れてやった。
蓋を開けたときに腐った臭いが鼻についたので今後は防腐剤を入れることにしよう。
大きなガラスケースごと二匹の死体と記録を上司に渡すと仕事熱心なのは良いが熱心すぎると言われてしまった。ニコニコしながら聞き流したら不気味そうに行ってしまった。
ちなみに次の日にあった上司の失踪事件には私は関与していない。私は。