最近ようやく実験体専用の建物が出来た。そこから好きなポケモンを持ってくれば良いとの事だ。
最後に無駄使いはするなと念を押されてしまった。ひどく残念だ。


気を取り直して今回連れ出したピチューを眺めた。少々小ぶりなため早く済みそうだ。
仲間と引き離されて寂しそうだが先ほど与えた木の実が気に入ったのだろう私のほうを笑顔で見上げている。
食べ物一つで平気で仲間のことを忘れるとは…虫唾が走る。


今回は元素記号Se、原子番号34の半金属、セレンを使用することにした。
これも殺虫剤に使われることのあるものなので取り扱いには十分注意しなければならない。
実は先ほど与えた木の実にも注入しておいた。微量なので少しも疑うそぶりは無かった。これからが楽しみだ。

三日もすると毛は抜け落ち禿が目立つ。前回のように説得しておいた。
このピチューも疑いもせず納得したようだ。アホで助かった。
(脱毛)

関節は徐々に痛みが酷くなっているようなのでマッサージしてやった。
関節が少し曲がってしまったのは私の所為だけではないことを言っておく
…少しは私の悪意のこもったマッサージかもしれないが。
(リウマチ、非炎症性関節痛)

目がむくみ、開けるのが大変になってきたようで、寝ているのか起きているのか判断しづらい状態になってしまった。つつくと反応するので今は起きているのだろう。(眼瞼浮腫)

歩くのが大変になってきたようで関節痛も手伝ってほとんど動かなくなってしまった。
寝ているのかどうか判断しづらいのでつつくことが多くなった。
迷惑そうにするので先の尖った棒で突いてやったら叫び声を上げてゲージの端まで逃げておびえていた。
腹部に少し穴が開いた様で血が流れ出していたが、生命にはかかわり無いだろうから放っておいた。
(歩行困難)

しばらくつついて遊んでいたら逃げる途中で息を切らし倒れたので見てみると死んでいた。(呼吸困難)

あっさり死んでしまったので残念だったが、おびえる表情が見られたので良しとした。

上司は何故小さい個体を選んだのかと不思議がっていたが適当にごまかしておいた。
もう一つのほうが私にとって本番だ。

今回の実験体とは別にこっそり連れてきたピチュー
(これのために本来の実験体を小ぶりにしてさっさと済ましてしまっていたのだったりする。)
をガラスケースの中に入れる。このピチューは実験体の兄で猿轡をかませて眺めさせておいた。
弟が苦しんでいる間は泣いていたが死んでしまうと呆然としていたので
ガラスケースの中に入れるのは簡単だった。
ようやく気づき、不安そうに上ろうとしてくるピチューの目の前で蓋を閉めてやった。
泣きそうな顔で鼻血を垂らしている。先ほどぶつけたのだろう。ひどく滑稽な顔になっている。

ピチューの叫び声を聞きながらガラスケースの中に少しずつある気体を注入してみる。
セレンに酸を加えると発生するセレン化水素だ。無色なので様子が良く見えるのが良いところだ。


あっという間にその悪臭はケースの中に広がったようでピチューは鼻を押さえて逃げ惑っている。
逃げられるはずが無いのに…やはり面白い奴だ。
(不快臭)

だんだん目が充血してきた。アルビノの様に真っ赤になってしまっている。
もうあまり見えていないだろう。
(結膜炎、角膜障害)

涙と鼻水をだらだら流し苦しそうに咳き込んでいる。燃えるような痛みが襲っているのだろう。
顔中ぐちゃぐちゃにしながらまだ出口を探している。やはり馬鹿だな。(目、鼻、上気道への灼熱性の刺激)


汗をだらだら流しながらひどく咳き込んでいる。
血の混じった痰を吐き、苦しそうな息をしているのでそろそろ危険だろう。
(肺水腫)

遂に痙攣を起こし呼吸が出来なくなり倒れた。(呼吸困難)

蓋を少し開け、匂いが漏れないうちに火の付いたマッチを投げ入れ即座に蓋を閉める。

とたんに大爆発を起こした。セレン化水素は燃えやすいのだ。
肉塊は内部に血の飛び散ったガラスケースごとダストシュートに放り込んでおいた。
今頃は三途の川辺りで再会できて喜んでいることだろう。顔にのぼる笑みは隠しきれなかった。