さすがに暴れすぎたらしく心臓に手を当てて真っ青な顔で脂汗を流している。
毒が回ってきた所為だと気づいただろうか?
気づいたとしてもすりこぎは抜けないだろうから問題は無いが。
(頻脈)

とうとう幻覚を見出したようで涙を流し、唸り、周りを睨みつけながら爪で空気を切り裂いている。
かなり怯え、恐怖に歪む顔をしているということはおそらく私の幻影が見えているのだろう。
あるいはもっと恐ろしいものでも見えているのだろうか。
そうだとしたら見習わなければ…おっと、口が滑ってしまった。
見ていると目などあるから怖いものが見えるのだと言わんばかりに爪を自分の目に突き刺してしまった。
もう見えていないのだから状況は変わりはしないが、本人は必死なのだろう。
激痛を押さえ込みながら爪を眼孔から引き抜くと爪に目玉がぶら下がってしまって、
ぽっかりと開いた眼孔からは血と体液が混ざり合ったどろどろとした液体が流れ出していた。
(幻覚)

しばらく見ていると発情期の猫のような鳴き声を発し、影を追うというよりめちゃくちゃに腕を振り回しだす。
まるで踊っているように見える。これは死の舞とでも言うのだろうか?
足ががくがくと震えていて足元はふらふらとおぼつかない。遂に倒れてしまった。
(錯乱)

うぁーともうぉーともつかないうわごとを唱えながらぐでーと伸びてしまった。
もう動くことすら辛いだろうが、顔を必死に前方に向け、
冷や汗を流しながらおびえた顔をして必死に這っていく。
その先には光でも見えているのだろうか?
(倦怠感、脱力感)

腹を下にしていたことも手伝ってすりこぎは今にもとび出しそうにしている。
ゆっくりひねりながら抜いていくと腸の壁と汚物、血液が付着し、まだらになったすりこぎが姿を現した。
歯を食いしばりぎりぎりと音を立て、爪を床に突きたて痛みをこらえようとするが
どうあがいても痛みは消えない。爪が全て剥がれても気に留めずに床を引っかき続けたため、
床には赤い縞が何本も何本も走った。すりこぎを全て引き抜くととたんにものすごい量の汚物が噴出した。
お゛あ゛ぁぁぁと声を絞り出しているのは腹痛のためか、苦しさのためか、
直腸の傷に汚物が染みるためかは分からないがおそらく全て当てはまっているだろう。
全て出し切ってもまだ腹は必死になって体から排出を行なおうとしているらしくびくびくとさせていて、
時折体液を申し訳程度に排泄している。
(腹痛(下痢))

臭いと排泄する衝撃が引き金となり、上からも排泄を行なっている。
胃の働きは相当弱まっていたらしく、消化途中の肉が、羽が、鱗が、ひれが次々に出てくる。
見たところ朝ごはんはポッポとコイキングだったようだ。
あまりすっぱい臭いがしないのは胃が働いていない証拠だ。胃液もあまり吐き出さなかった。
(腹痛(嘔吐))

顔は真っ赤になり、熱を出し、呼吸も荒い。
ぜぇひゅぅぜぇひゅぅと喉から音が漏れるので相当乾燥しているのだろう。
激しく咳き込むと血を吐いた。壊れた喉で必死に哀れっぽい声を上げるところを見ると
命乞いをしているのだろう。…どちらにしろもう手遅れだから観察を続ける。
もともと助けるつもりなど毛頭ないがね。
カメラを手にもち涙と鼻水と血と汗と汚物にまみれたぐしゃぐしゃの顔をアップで撮る。
完全にホラーだ。娘のことを思い出し慌ててやめるがもう見てしまっただろう。
八つ当たりで脇腹に蹴りを入れると、こふっと黒っぽい血を吐いて鳴くのをやめた。
(高熱、呼吸の乱れ)

遂に体をびくびくさせ始めた。(痙攣)残り少ない体力をフルに使い、のた打ち回るが、
酸素が少なくなり動きが弱まる。呼吸がまともに出来ていないのだから当然の結果だ。
(呼吸困難)
喉を押さえながら尚も転がろうとするが、いきなりその動きが止まる。
胸を押さえたかと思うとスローモーションのように仰向けに転がった。
その顔はすさまじい顔をしていてなかなか楽しませてくれた。

ザングースの残骸をまとめ、娘のいる部屋に戻り尻尾を渡し感想を尋ねると
何で解毒剤を使わなかったの?といわれてしまい、返答に詰まってしまった。
すると娘は満面の笑みで使わないでくれてありがとう!とっても楽しかったよ、また見せてねと言ってくれた。
やはり私の娘だ。

頭をなでてやると娘は2枚の絵を私に手渡す。
そこには白衣を着た男がぐちゃぐちゃになったザングースらしき肉塊の隣に立ち
笑顔で尻尾を掲げているものと、体液にまみれてぐちゃぐちゃになった恐怖に歪むザングースの顔だった。
すばらしいと褒めてやるとふわっと幸せそうに笑い、嬉しそうにしていた。この子の将来は決まった。

Mタウンに娘を連れて行き、ハブネークの件と娘の意気込みをDr.Oに伝え、
娘を研究員にしてくれないかと頼み込んでみた。
駄目で元々なのだから断られても一向に構わない。
Dr.Oは渋い顔をして口を開く。

Mタウンから帰ってきた次の日にはぶかぶかの白衣を着て私の隣で懸命に薬品名を覚える娘の姿があった。
その首には真新しい
IDカードをぶら下げていた。「研究員見習い」。カードには娘の写真と共にそう書かれていた。