そう言って優一は置いてあった器具の中からバリカンを掴むと
ポチエナの身体をごろりと転がし、仰向けにさせた。
「それじゃ、オペを開始します。
まずは邪魔な毛を剃らなきゃだよね。」
びぃぃぃん…じゃりじゃりじゃりじゃりと盛大な音を響かせながら
灰色の毛の下から薄桃色の皮膚が顔を出していく。
ポチエナは、地肌を空気に晒しながら、
恐怖に塗りつぶされていく心の片隅にあった、
『これは主人の悪い冗談で、自分を抱きしめて
太陽のような笑顔で微笑みかけてくれるのでは…』という
唯一の希望さえ儚く崩れ去っていくのを感じていた。
ポチエナの目からは知らず知らずのうちに涙が一筋流れていた。
優一はそんなポチエナの様子にまた心に痛みを感じたが、
『ポチエナが悪いんだ…悪い子にはお仕置きが必要なんだ!』と
自分に言い聞かせ、バリカンをメスに持ち替えた。
「…いくよ。」
優一は一声かけるとメスを小さく上下するポチエナの腹に押し当てた。
手ごたえもほとんどなく、すぅっと刃先が潜り込み、
そのまま下へと滑らせていくと赤い筋が描かれたと思ったら
あっという間にその筋が太くなり、腹から背中へ幾筋も流れていった。
ポチエナはメスが動くたびにぴくっぴくっと身体を震わせて、
どうにか動く目で必死に痛みを訴えようとするが
「…すごい…」
優一の目は好奇心と黒い気持ちが混ざり合い、
ポチエナの訴えなど気にも留めていなかった。
くちゅ、と中に指を差し入れ、左右に開こうとするが、
まだ手術器具の使い方も分からない優一には
自然と閉じてしまう傷口をとめる事ができず、
何度も傷口を開いては、そのたびに、
ポチエナが声無き悲鳴を上げていた。
「…縦に切っただけじゃ上手くいかないな。
横も切らなきゃ開けないみたいだね。」
優一の言葉にこれ以上の痛みは耐えられないと
ポチエナは涙をあふれさせて必死で伝えようとするが、
喉の奥からはひゅーひゅーという空気の漏れ出す音しかせず、
優一の注意を引くことはできない。
優一は傷口の上下を脇腹から反対側の脇腹にかけて長く切り、
元々あった傷口に手をかけると思い切り広げた。
みちみちみちみち…ぶちぶち…べりぃっと傷の浅かった部分を
無理やり裂き、筋肉や血管を引きちぎり、
左右に肉が押し広げられていくとともに
血と腸がぶわぁと溢れ出してきた。
「うわぁ…触ってもいい…よね…?」
誰に聞くとも無しに呟き、ふにふにと内臓をつつく。
腸や肝臓に触れながら徐々に上のほうへと手を滑らせていく。
「あったかいし、それに柔らかい…
………え…………?」