「さて、もういいでしょ?二人ともどいてどいて。

ここからはあたしの腕の見せ所ね♪」

降りてき始めていた袖を捲くり直すとプリンに手をかけた。

すでにあきらめたと言った表情を見せるプリンだが、

やはり痛みは嫌なのか軽く体を震わせていた。

「怖い?大丈夫、大丈夫。ご期待通り痛いから。」

少しも平気でないことを平気で口にする。

鮮血が溢れる頭頂部に刃を当てるとすぅっと手前に引いた。

プリンの体を回しつつ大きなリンゴを剥くように手際よく丸裸にしていく。

筋肉と皮膚の境目のあたりをしゅるしゅると刃が滑る。

筋肉がうっすらと透けて見える程度の薄さの皮を途切れることなく剥いでいく。

あれだけ豪語していただけあってさすがと言ったところだ。

あっという間に真っ赤に染まった球体の上を包丁が撫でていく様は異様な光景であった。

大きなリンゴと言うよりは熟しすぎたトマトのようだ。

一通り丸裸にしたところでくるりと私の方に向き治った。

「せんせーい。今回は聴力使う?」

「んー?今回はとりあえず目だけ残しといてくれればいいよ。

後は…殺さないように気をつけといて。」

「はーい。」

くわえ煙草で大して面白くも無い新聞を読みふける私の言葉に、

小学生に聞かせたいほどいい返事をした女生徒はプリンに向き直った。

傷薬を2.3本、適当にぶちまけながら

綺麗に爪が切りそろえられた指先をぺろりと舐めると

プリン…もとい、真っ赤なボールの頭と思しき部分にそっと両手を乗せた。

両手の中指で血だまりの中を探ると他の場所とは違う

柔らかくへこんだ場所を見つけた。

先ほどの傷薬で出血が止められ、目に染みたとはいえ、ある程度痛みを和らげられて

生かさず殺さず状態のプリンは、耳が有ったはずの部分を撫でられる痛みに身を震わせるが

それだけの動きで体中のかさぶたに亀裂が入りみちみちと湿った音を立てる。

それと同時に体の下の血だまりが広がり、激しい痛みが全身を貫く。

痛みに耐えかねびくっと体を撥ねさせたのが裏目に出て鼓膜を指先でつつかせてしまった。

「――――――!!!???」

突然響いた轟音に丸い目をさらに丸く見開くと共に三半規管に変調をきたして

口の縫い目から血と融けた肉と胃液と唾液とが混ざり合った液体が漏れる。

「もー勝手に動くから鼓膜触っちゃったじゃん!

でも、鼓膜破いちゃったらこんなもんじゃすまないよん♪」

くるくると表情を変わらせながら楽しそうに鼓膜の少し上辺りに指を伸ばす。

「えいっ♪」

可愛らしい掛け声と共に指を内耳の半ばまで差し込み即座に抜き出した。

プリンは頭の中を台風が駆け巡っているような轟音と上下左右の区別がつかない感覚とで失神してしまった。

「ふぅ…出来上がり!」

血がべったりとついた腕で額の汗を拭った所為で額を真っ赤に染めた女生徒は

くるりと後ろを振り向きピースをした。

その後ろにはただの真っ赤な球体が転がっているだけだった。

私は新聞を畳むと同じ体勢をとっていたために強張った腰を伸ばしながら

立ち上がり、球体と化したプリンの様子を近くで眺めた。

「出血がちょっとやばいかなー。死なれちゃうと困るから「先生特性調合薬」使っちゃおうか。

費用は学校持ちだし、備品の購入についてはとやかく言われないから大丈夫でしょ。」

普通の傷薬のと大して変わらないビンの蓋を開け、

無造作に手首をひねり透明な液体を赤いボールへとぶちまけた。

この薬はかければどんなに酷い出血でもぴたりと止め、体に染みこむことによって

即座に失った体液系統を補うことが出来るがものすごい激痛を伴い、

普通のポケモン用傷薬とは違い、怪我を修復したり欠損した肉体を復活させたり

と言うことは出来ない。その上材料として珍しいものを多量に使用するため

とんでもなく高価になると言う代物だった。

「――――――――!!!!!!!」

ばちゃりと液体がかかった途端に声にならない叫びを上げる。

零れ落ちそうなほど見開かれ乾燥しかけていた目からはとっくに枯れたはずの涙が溢れていた。