「そうだ。良い事思い出したよ。ちょっと待っててねー。」

準備室の方へ目的のものを取りに戻る。確かこの引き出しの中にあったはずだ。

目的のものを持つとプリンを仰向けに転がし生徒たちに押さえさせた。

「いくよー。ちょっとちくっとするけど我慢してねー。

目をちょっとでも動かしたら失明しちゃうかもしれないよー。」

無責任なことを言いながら手にした針を右目へと近づけた。

先ほどの薬による痛みをもしのぐ針先が迫ってくる恐怖に身を震わせる。

しかし先ほどの私の言葉によって、目を動かそうとはしない。

目に近づいてくるものを見つめ続けるなど非常な精神力を要していることだろう。

針の先がぼやけ、ただ黒いものが近づいてくる。

何か言っているようだが口がふさがれているため

ふぅふぅという空気が漏れる音しか聞こえない。

眼球の中に異物が挿入される感覚はどんなものだろう。

ぷつっと小さな音を立てて狭い白目の部分へと針が差し込まれた。

激痛に目を動かそうにも針が邪魔になって動かせる範囲は限られてくる。

少しでも針が皮膚に触れてしまうと眼球内をかき回されるおぞましい感触が脳内を駆け巡る。

「また前を見てくれるかなー。今度は左だよ。」

左にも同様の処置を施し、右、左、右、左と順に白目に針を刺していく。

手持ちの針が尽きる頃には黒目の周りを針が取り囲み、

剣山か針山のような様相を呈していた。

痛みに耐えかねて眼球を動かしたときに広がった穴から

硝子体が流れ出ている箇所が所々にあり、涙と入り混じって体を伝っていた。

「そろそろ抜いてあげるよ。」

針の穴に通しておいた細い糸の束をまとめて掴むと生徒たちを離れさせ、一気に引き抜いた。

一気に穴から流れ出る硝子体を止めるために涙が大量に流れ目を覆い、

回りの生徒たちが離れたために押さえがなくなり左右に身を捩じらせる。

転がりまわりたいところだろうが瞼が無いために

目を直接地面に押し付けてしまうことになってしまうので

痛みにつき動かされそうになりながらも懸命にこらえているようだ。

時計を見ると後十数分で薬の効果が現れるところだった。

「皆さーん。観察の時間ですよー。椅子を持って教卓の回りに集まってくださーい。」

プリンを空の水槽に放り込みながら声をかけるとぶつぶつ言いながらも皆満足した様子で

身支度を整えたり片づけをしたりしながら、教卓の周りに集まってきた。

普通の傷薬をばしゃばしゃとかけ、痛みにもだえさせながら時間を待った。

「一応補習って言う名前がついてるから時間つぶしがてら

それっぽいつまらない説明でもしておこうか。

さっき委員長には言ったけど今回使ったのは整腸剤として使われてた

キノホルムって言う薬品。これの副作用でスモンって言うのが起きるわけ。

別名、亜急性脊髄視神経抹消神経障害。舌噛んじゃいそうな長い名前だぁね。

そんなんはどうでもいいんだけど、今回はそのキノホルムを

当時の使用量の2倍与えてみました。確実に副作用起こすようにね。

あ、そこ寝ないでよぅ。もう始まるからねー。」