光も捉えられなくなった目に頼らず、手探りで蘇生を試みようとするが、
そこに風鈴の「サイコウェーブ」が炸裂。頭部の右上が膨張し、吹き飛んだ。
眼球がぶら下がり、半分だけの脳をはみ出させ、下側のみの歯茎の上にだらりと垂れる舌。
その上を母親の手が撫で、気づいたミミロップはすとんと座り込んでしまった。(視覚障害)
半分だけ開いた瞼からは何の光も見出せず、開ききった瞳孔に映る無残な亡骸。
必死だったため忘れ去られていた痛みが襲うも放心したミミロップには意味が無い。
ごぽりと、吐瀉物と排泄物が溢れ、毛皮を浸蝕していく。
何も映さなくなった目からははらはらと涙が流れていた。(瞳孔散大)
ふらと、その体が大きく傾いだかと思うとどさっと倒れてしまった。
体を震わせ、けたけたと壊れた笑顔を貼り付け笑うが
その声も次第に聞こえなくなっていった。今のミミロップには関係ないが、
動こうとしても動けない状態になったのだ。(麻痺)
測定機器は脈拍、呼吸、血圧どれにおいても下降線を示し、
ぼんやりとした表情のミミロップからは生気が抜けていった。
天井近くから風鈴が降りてきて、体の下のひらひらしたもので
ミミロップの体の綺麗な部分を撫でて遊ぶが無反応だった。(徐脈、呼吸緩徐、血圧低下)
測定機器が危険を示す赤いゾーンに計測値が達し、エラー音を響かせる頃、
ミミロップの体はびくびくと跳ね出した。筋肉の収縮を示す値が、
激しく上下に振れ、先ほどのとはまた違うエラー音を響かせている。
汚物の上を跳ね回り、体中をべとべとに汚しまわっている。(痙攣)
痙攣も納まりかけ、響く音が計測値のエラー音だけになると、
表情筋の収縮で醜く歪んだ顔の中瞼がゆっくりと閉じていった。
ゆったりとした呼吸を繰り返す腹部から生きていることは分かるが、
それも少しずつ浅くなっていった。(昏睡)
じゃっという音が響き、ミミロップの胴体から頭部が切り離され、宙へと浮かんだ。
口元から一筋の血を流すその頭部からは、死んだことに気づいていないかのような
安らかな寝顔が浮かべられていた。…すでに死に顔となってしまったが。
両耳を左右に引っ張られ、「サイコウェーブ」によって頭蓋ごと切込みを入れられた頭部は、
いとも容易く左右に分かれ、ぷるぷるとした脳がずるりと引きずり出された。
脳に繋がった神経から、その先の眼球や三半規管、蝸牛等もぶら下がり、
それに張り付く筋も、芋づる式にずるずると引きずり出される。
くるりと逆さまにされた様は醜悪な薬玉のようだった。
実験室から戻ってきた風鈴を撫で、褒めると、
とても嬉しそうに目を細め、透き通った鳴き声を響かせてくれる。
…実は、妻の死に様を思い出してしまうため、妊娠中のものは
今まで避けてきていたのだが、風鈴がいるおかげだろうか。
少しも心の中に揺らぎが生じなかった。もちろん妻のことを忘れたわけではない。
今でも鮮明にあの頃の日々が思い出せる。
しかし、風鈴によって安定が得られたのは確かな事で、
風鈴はどうしても妻の生まれ変わりとしか思えない。
そんなことを考えているのを知ってか知らずか、
ころころと微笑んで、私のことを妻と同じ瞳で見つめていた。