元気だった頃の面影はさっぱり無く、生きる気力も無くした者にも最後くらいは足掻いてもらおう。
小部屋に入った風鈴に合図をし、尻尾の先にライターで火を点けさせる。
風鈴の姿も捉えられなくなったリーフィアにはまったく気づかれずに事を済ませた風鈴はすぐに引き上げた。
火が点いた事に一瞬遅れて気が付いたリーフィアは虚ろだった表情に生気を取り戻した。
慌てて尻尾の方を見るが先の方は炎に包まれ、じわじわと体に近づいてきている。
目に入り、理解した瞬間、強い痛みの感覚が脳へと辿り着いた。
急いで震える足で尻尾に触ろうとするが熱くて触ることもできず、
尻尾を振り回し、床に叩きつけ、火の勢いを弱めようとする。
…火を消すことだけに気をとられていたリーフィアは気づかなかった。
石油がじわじわと床に広がっていたことに。
シャワーズ、ブラッキーのときに利用した床からの給水設備に、
石油の入ったタンクを繋げ、少しずつ注入していたのだ。
気づいた頃にはもう遅い。尻尾を叩きつけた先にあった石油に引火し、
一気に燃え広がった。部屋の中に広がった火の海に、恐怖する。
尻尾の炎は付け根辺りまで燃え広がり、先の方は焼失していた。
付け根にある太い神経に炎が達し、今までに無い脳を焼くような痛みに転がった。
その転がった先にあったのは大きな炎、石油が注入されていた石油だまりだった。
頭にある葉や、耳の先、四肢から出る葉のような部分はすぐに燃え尽き、
そこの方に残っていた酸素に触れていない石油が付着したクリーム色の毛皮に、
あっという間に炎がまとわりつき、ちりちりと毛を焦がし、皮膚に到達する。
炎の中にいるために奪われる酸素に酸欠状態に咳き込み、取り込む熱風に喉を焼かれる。
朦朧としそうになる意識も熱さと痛みで強制的に覚醒させられる。
…見づらくなってきたので一旦消し止めるとしよう。
スプリンクラーからは冷たい水が降り注ぎ、火が消し止められた部屋の隅には、
体からぷすぷすと煙を上げながらびくっぴくんっと痙攣するリーフィアの姿は、
真皮を焦がされ、爛れさせられる。重度の火傷に眼も当てられないほどの惨状だ。
顔は唇が半分ほど燃え尽き、歯がむき出しに、瞼も片目は辛うじて残っているが、
もう片目は燃え尽きて、眼球が熱で白く濁ってしまっている。
全身は炭化している箇所もあり、生きているのが不思議なほどで、
生き物の生への執着、最後の足掻きが見られて満足だ。その命は風前の灯。
折角なので、綺麗に吹き消してやろう。スプリンクラーのスイッチを入れる。
そこから霧状に噴出したのは水ではない。石油だ。空調からは酸素が流れ出す。
燻っていた残り火が見る見るうちに勢いを取り戻し、ごうっと爆発的に燃え上がる。
ぎやああぁぁぁぁ…と断末魔の叫び声が、あの状態で出せるのかと思えるほどの声が、
スピーカーから響いた。業火の中で踊り狂うリーフィアの影がちらりと見え、
崩れ去った。酸素の供給をやめ、鎮火された黒焦げの小部屋の中には、
生物がいたという痕跡は何も残っていなかった。