最後はグレイシアだ。最初の頃の映像を見ると、何かをして欲しいと訴える奴がいないのだから、
さぞかし楽をしているのかと思いきや、つまらなそうに、悲しそうに俯いていた。
…あまり理解できない感覚だな。虐げられるのが嬉しいのだろうか?
グレイシアにとってはそれが生き甲斐だったのだろうから他人がどうこう言うことではないのだろうがな。
カメラを見つけると尻尾を振って何か命じてくれないかとでも言うようにきらきらと目を輝かせていた。
しかし、何の反応も見せないことに少し肩を落としながらも、こちらが気にしないためか、
明るく見えるような微笑をこちらには向けていた。
ちなみに、こいつの餌にはブースター同様アジンホスメチルを混ぜてある。
餌を貰っても遠慮するくらいなので大量に摂取させるのは難しかったが、
早い時期から与えていたためどうにか間に合った。
カメラに背を向けてつまらなそうに水を舐めるグレイシアの瞳が見開かれる。
驚愕に彩られた目はきょろきょろと彷徨いながら明かりを求めようと上を見上げ、
その光が目を細めず、普通に見られることにさらに驚く。ぼんやりしていたが、はっとし、
何事も無かったかのように取り繕った、不自然に強張る笑顔をカメラに向けてきた。(縮瞳)
唐突に光が力を失ったことに対する驚きも手伝って、心臓の拍動が大きく、早くなっていく。
荒くなる呼吸、滴る汗、どれもが体の不調を訴える。しかし、食物を疑うことなど考えにすら上らない。
何故なら誰かからわざわざいただいたものだから。力が強すぎる血流に耐えかねた血管が破れ、
内出血が起こってもその部分をカメラから隠して、笑顔は絶やさなかった。(血圧上昇)
その笑顔が突然苦しそうに歪み、体を折って咳き込みだした。
咳き込む音はごぼっがはっと水音が混じっている。肺の中に水が溜まってきたようだ。
ぜぇひゅぅと肩で大きく息をしつつ、時折激しい咳に苦しめられる。
酸素がまともに吸えずに呼吸困難にもなりかけているようだ。(肺水腫)
海老のように曲げられていたグレイシアの体が、突然電流を流されたかのように、逆に反らされ、
がくがくと震えだす。痙攣に耐性の無かった体は、大きく震え、白目を向き危ない状態だ。
舌だけは噛まないように、こめかみ辺りから両頬に垂れ下がる触角のようなものを口の中に放り込むことにしよう。
しかし、根元から千切るとその痛みで、我に返ったようで吐き出し、涙を零しながら胃の中身を吐き出していた。(全身痙攣)
横向きに倒れ、口から泡交じりの消化物などを垂れ流しながら、痙攣に対する抵抗をやめていた。
その目は虚ろで、咳と痙攣により消耗させられた体力と常時緊張状態にあった精神が崩れたことにより、
痙攣で強制的に伸縮させられる他は体からは全ての力が抜けきっており、下腹部は尿が垂れ流されたことで、
艶やかだった毛並みはぺったりと皮膚に張り付き、汚れてしまっていた。(失禁)
機械の調節をしてくれていた風鈴を呼び、グレイシアの瞳にライトを当ててもらうが、
その瞳孔は開かれたままで収縮する気配は感じられなかった。意識は無いのだろうが、
もしあったとしたら非常に眩しく、目が慣れることも無いのだから視力に異常をきたすことだろう。
そこだけ見ると死体だが、体が時折ぴくぴくと動くことから生きていることが判別できた。(対光反射喪失)
脳波を測定している機材に目を向けると、意識は既にないようで、死の世界に入りかけているところのようだ。
肺水腫により呼吸が、痙攣により心臓がこの僅かな時間で役目を放棄せざるを得ない状態に陥らされていた。
辛うじて燈っている命の灯もほんの少しのきっかけでふっと消えてしまう。
当のグレイシアは自分の命がそのようなことになっているとは思ってもいないことだろう。まぁ、思考自体できないのだが。(意識混濁)