グレイシアの意識は暗く深い闇の中へ沈んだ。もう何をしても起きないだろう。

丁度良い。前々から無反応の奴に試したかったことがあったのだ。

風鈴に指示を出し、脱力しきったグレイシアをケースの外に出す。

「サイコウェーブ」で体に傷をつけずに体毛のみを刈る。一筋も血が流れることは無かったのはさすがと言うべきだろう。

意外に弾力のありそうな皮膚を晒すグレイシアの体をケースの中に横たわらせ、

風鈴に「どくどく」をするよう指示を出した。毒の正体はこの施設でもポピュラーな硫酸だ。

少し皮膚の上に垂らすとしゅわーと泡が発生し、皮膚が溶け出していく。

よく知らない者だと一滴でも垂らせば反対側まで貫通するのだと思っているかもしれないが、実際はそうではない。

どんなに強い酸でも、それ自体より酸性が弱いものとなら中和しあい、終われば反応も止まる。

熱湯と冷水で温かい湯が作れるのと同じ原理だ。冷水に一滴の熱湯では足りないのだから。

そんなことを考えているといつの間にか反応が終わっており、ぽつりと小さな穴が開き、じわじわと血が滲む。

相手は暴れることも無い。じっくりと時間をかけながら塗布することにしよう。

横たわり、浅く上下する脇腹に硫酸を薄く広げる。じゅわぁーっと泡で覆われるが、

その隙間から見える皮膚はどんどん赤く変色していっていた。

表皮も真皮も溶け、所々に筋肉が現れる。血があふれ出し、心なしか顔色が悪くなったように思える。

まだ溶けきっていない部分も布で拭うとずるりと布の方にへばりついて剥けてしまった。

布にはぷるぷるとしていて半ペースト状になった赤とピンクの斑な肉が付着しており、剥けた部分からは大量の血液が滲み出てきた。

筋肉にも塗布するとじゅわじゅわと酸が筋肉に絡みつき、溶かし爛れさせケロイドよりなお酷い状態へと変貌させていった。

筋肉、骨と着実に蝕んでいく強酸。その行く先には内臓があった。

すっかり人体模型のような状態になり、若干爛れた腸をはみ出させながらゆったりと呼吸を繰り返すグレイシア。

水音が混じるが大して気にもならなくなり、迷い無く硫酸が塗りたくられた。

表面に流れる血液や内部に溢れる体液などの水分と反応して高熱を発し溶かしていく。

ふと目を移すと、体内に見慣れない器官を見つけた。どうやらそこで氷を精製しているらしい。

風鈴に言うと、私と同じことを考えたらしい。その袋の中に硫酸を流し込んだ。

中にある大量の水分と反応し、湯気が上がるほどの高熱が発生し、

破れてあふれ出した酸性の熱湯は周りの内臓を溶かし、茹で上げてしまった。

肺や心臓も茹で上がり、眠るように死んでいった。腹部が溶けるのを夢の中ででも見ていただろうか。

決壊した鍋のような腹部を晒す安らかな表情を浮かべた骸を残し、グレイシアはあの世へと旅立った。