さて、気を取り直して初日はイーブイからだ。
最初なので派手にいこう。イーブイには四アルキル鉛を使用する。
ケースの上に浮かんでいる風鈴に合図をし、蓋を上げ四アルキル鉛を流し込んでもらう。
蓋が開いたことに安心して真下に走り寄ったイーブイは、
頭からまともに被ってしまった。
驚いてすぐに体を震わせて振り払うが、
毛の隙間から僅かに入り込んだ四アルキル鉛が効果を表した。
べたべたとする薬液に不快感を顕にし、壁や地面に体を擦りつけ始める。
しかし、徐々にその表情がべたつきの不快感だけではなくなっていく。
体をくねらせ体中の痒みに耐えようとするが、いつまでたっても無くならない。
その瞳は黄色っぽく染まり、濁った目は痒みで朦朧とする頭の中を体現していた。(黄疸)
それほど動いたわけでもないというのに、舌をだらりと垂らし視線を彷徨わせる。
目の端に写った目的のモノに目をぎらつかせて駆け寄る。水入れだ。
水入れの中に舌を伸ばし、ぺちゃぺちゃと音を立てて水を飲む。
空になっても最後の一滴までも残さないよう、舐めとっていた。(多渇多飲)
まだ足りないのか周りを見渡すが、その部屋にはもう水は無い。
甘えるようにきゅぅんと鳴くが、私はそれほど甘くは無い。
鳴き続けうろつくイーブイの足が不意にかくんと折れる。
測定値を見ると前足の先をぴりぴりとした感覚が走っているようだ。(末梢神経障害)
前足を舐め摩る。しばらく同じ体勢で舐めていると思うと、そのまま固まってしまった。
老人のような遅さでゆっくりゆっくりと足を伸ばし、
動かすたびに顔を苦痛で歪め、助けを求めるように鳴く。
それまでも、周りに助けてもらうことで生きてきたのだろうな。(関節痛)
助けが来ないと分かるとむすっとしたような表情を一瞬見せるが、
カメラに気づくと涙を湛えた瞳できゅうぅんと鳴きながら見つめてきた。
よろけた様な足取りで近づいてくるのは演技半分本気半分といったところか。
間接を曲げないように来るが、それでも痛みに顔を歪める。(筋肉痛)
研究者である私は冷静でなくてはいけない。その私でさえ反吐が出るような、
ぶりっ子っぷりを見せ付けてくれるイーブイには、正直腕が鳴る。
そのイーブイは、軽く腹が張っているようだ。妊娠ではないが。
端にある砂トイレに座り込むが何も起こらないまま時間が経っていった。(便秘)
一息つき、力んで強張った表情を緩めるイーブイを軽い痛みが襲う。
カメラ目線で情けない声を出し、カメラの死角(隠しカメラの方)を向いて舌打ちをする。
これだけあからさまにやってくれると面白さがこみ上げてくる。
前足で腹部を押さえるイーブイを風鈴も呆れ交じりの笑顔で見つめていた。(腹部の疝痛)
ようやく出た便は、ほぼ液状だった。ぐうぅと腹を押すようにして排泄するイーブイ。
液状のものの噴出が終わると、半固形状の便が押し出されるように出てくる。
力んでは休み、力んでは休みするイーブイの表情からは、
余裕を感じさせる甘えた表情は消え、苛立たしげな醜い表情しか残っていなかった。(下痢)
ぐるぐるとなる腹を押さえ、痛みに耐えながら排泄を続ける。
脂汗をだらだらと流し、歪む表情は先ほどまでの偽った表情よりはましだった。
排泄物に目を移すと便固有の色の中に緑や黒といった色が混ざっていた。
それは食物の未消化物と言うより便の色自体がおかしいと言った方が合っていた。(異常便)
ぐううぅぅと一際大きく唸り声を上げたかと思うと排泄物の中に赤色が混ざった。
鮮血の赤と異常便の緑と黒、そして正常な黄土色。色とりどりだ。
カメラの存在を思い出したらしく慌てて取り繕うとするが無理だ。
悲鳴に近い鳴き声をあげつつ便の出きった肛門から腸液を飛ばしていた。(血便)