便を出し切って多少は収まった腹部の痛みの代わりに今度は不快感が襲った。

頭の痛くなるような、出来ることなら内蔵を丸ごと交換したいような気持ち悪さ。

ふらつき、意識朦朧としているイーブイにとっては、

車酔いのような感覚らしい。酒にさえ酔わない私にしては未知の感覚だが。(腹部不快感)

喉の奥に前足を突っ込み、舌を引っ張ったことも手伝って、

胃の内容物をぶちまけた。咳き込みつつ息を吸う間、背を震わせて猛烈な吐き気に耐える。

腹部の痙攣に合わせて吐瀉物が流れ出る。独特の酸味のある胃液にも吐き気が誘発され、

収まりかけたところでまた始まる。水で口を漱ごうにもすでに無かった。(嘔吐)

吐き気が続くこともあってか、餌には一切口をつけようとしなかった。

まぁ、仮に吐き気が無かったとしても毒の影響で口をつけられないだろうが。

顔を上げたイーブイはげっそりと疲れたような顔をし、

口から唾液なのか吐瀉物なのか分からないようなものをたらしていた。(食欲不振)

痺れや各部の痛みに耐えて立っていたイーブイの体がぐらりと傾いだ。

上と下からの排出の疲れに加えて赤血球が壊れているのだ。

猛烈な疲れと眠気がイーブイを襲うが痛みで意識が繋ぎとめられている。

風鈴は苦悶の表情を浮かべるイーブイを楽しそうに見下していた。(溶血性貧血)

血が急激に壊れていくことで顔からは血の気が引いていく。

青白い顔色を隠す茶色い毛皮の真ん中で黒い瞳に黄色く濁る白目が揺れる。

気絶と覚醒の狭間で意識を朦朧とさせているイーブイの表情は、

娘が見たら間違いなく可愛いと言うであろう代物だった。(蒼白)

何度か意識が飛んだことで睡眠の代わりになったのか睡眠障害のためか、軽く首を起こす。

最初の頃見せていたぶりっ子の面影はすでに無く、抑鬱、焦燥感、倦怠感により、

イラついた表情を見せ、周りを睨みつけ、カメラに向かって吠え立てる。

胸から首の筋肉が痙攣し斜頸が発生、発狂しかけていた。(神経症状)

カメラがある壁目掛けて体当たりを繰り返し見えない敵を振り払う。

その目は発狂した者のそれだ。その瞳は何も映さず、目に光も力も無い。

動きが弱まり始める。無理に動いたことと神経が正常に機能していないためだ。

妙な動きを始めているのは発狂しているためだけではないのだ。(神経麻痺)

徐々に自分の意思での動きが止まり、小刻みな震えが始まる。

風鈴の顔を見るとそこには満足そうな笑みが浮かんでいた。おそらく私も同じだろう。

体中がぴくぴく動き、一瞬目に光が戻り、助けを求めるように訴える。

その目には最初の頃のぶりっ子な色は消え、残るは恐怖のみだった。(痙攣)

はっはっと浅く頻繁に呼吸を繰り返す。そろそろ死が近いのだろう。

目からはプライドで作られたダムで堰き止められていた涙がとうとう溢れ出していた。

今までの人生が走馬灯のように流れていることだろう。ぶりっ子な人生が。

思うのは後悔だろうか?満足だろうか?それとも純粋な死への恐怖だろうか?(呼吸困難)

狭い小部屋の中で体を反らした奇妙な状態で絶命したイーブイ。

砂トイレには便と吐瀉物がブレンドされた汚物が撒き散らされ、

最後まで苦しみぬいた証しとなる体の汚れと表情。

最初の犠牲者であるイーブイは華々しく散っていった。

…だいぶ時間が掛かってしまったな。準備も含めれば朝から初めて、今は深夜だ。

娘の世話は先に帰った風鈴と鈴、その他諸々の人がしてくれているから心配は無いが、

帰って見るのが娘の寝顔なのは少し寂しいものがある。