ケースに戻してすぐに効果は現れた。

涎が止まらずミミナシと同じようになってしまったことに戸惑い、怒り、私の方を睨みつけている。
笑顔で見返してやったら悔しそうに涙と涎を流していた。(流涎)

全身を震わせているのは怒りのためだけではないだろう。私を見る目も怒りから怯えへと変わっている。
近くで見るとぴくぴくと細かく痙攣しているのが分かるだろう。(全身の筋の痙攣)

感覚が拡大しているようで小さな音や小さな動きでもすぐに反応してしまっている。
養殖されたものなので野性の本能ではなく毒によって得られた能力と言うことは
分かっているのであろうか?(知覚過敏)
激しい腹痛に体をよじるようにして耐えているがそんなことで耐えられるほどの痛みではない。
転げまわってもこらえきれない激しい痛みに顔をゆがめている。(疝痛)

尿は垂れ流しになり、終えたと思うとまた排泄が始まる。
大した水分は取らせていないので体液が排泄されているのだろう。
望んでいない排泄は苦しいものであろう。(頻尿)


目や鼻には所々血液が滞留してしまっている所があり、心臓の動きが弱まっていることが分かった。
貧血も起こしているようでふらふらしている。(粘膜の鬱血、貧血)


呼吸が苦しくなってきたようで苦しそうな息をしている。ミミナシのときから見ても死が近いことが分かった。
シロもそれに気づいているのかどうか…苦痛から逃れられるのだから喜んでいるのかもしれない。(呼吸困難)

遂に足の筋肉が収縮したまま固まってしまい、痙攣の後、息を引き取った。(運動の麻痺)


死体を片付けた後、カタメの方を見ると次は自分かと身構えたが、
すでに餌の中に混ぜてあるので放っておいた。カタメは拍子抜けしたようだが
次に出した餌には警戒して手を出さなかった。
次の日には平らげてあった所を見ると空腹には勝てなかったらしい。
私がカタメにのみ何もしなかったことに安心したのか出された食べ物は残さず食べることにしたらしい。
もちろん着実にトリカブトの毒が体を蝕んでいるのだが。
何もせずに観察するのみではつまらないので娘の遊び相手になってもらうことにした。
娘には大切な実験体だと伝えてあるので大丈夫だろう。

娘は部屋に入ると同時にバネブーのほうに駆けつけた。ガラスケースに顔をくっつけて覗き込んでいる。
バネブーも私以外の人間を見るのは久しいためか同じように顔をくっつけている。
傍から見るとほほえましい光景だが娘が後ろ手に持っているナイフが場違いに鈍い光を放っていた。

早速バネブーの元に行くとナイフを隠しながら近づき、バネブーが寄ってきたところを一閃した。
娘も医学には精通しているので浅く内臓を傷つけないように切り裂いてあった。

バネブーは一瞬きょとんとした後、腹から臓物が溢れそうになっていることに気づき慌てて押さえた。
足の動きも最小限にし、血が流れないよう一生懸命押さえているが、
顔からは見る見るうちに血の気が引いていく。

ふさがりかけていた頭の傷をナイフで軽く抉られて固まっていた血が溢れ出す。
怪我をしたところにはすぐに傷薬を振り掛けるのでふさがるが、痛みは残り、精神的にも追い詰められる。
取り出したダーツの矢で残った目を貫いた所でやめさせた。
ダーツの矢をそっと引くと、ぶちぶちと言う音と共に千切り取られた筋肉がついた眼球が取り出された。
視神経がついたままだったのでずるずると紐のようなものがついてきたが
あまり引っ張ると命にかかわるのでナイフで切って眼孔に戻しておいた。
眼孔からは血と体液が涙のように流れ出していた。

ダーツの矢の先には返しがついていて簡単には抜けなくなっていたのだ。
それを知らずに引っ張ったため眼球がついてきてしまったらしい。
とりあえず傷薬を眼孔に注ぎ込んでおき、腹は裁縫用の糸と針で縫いつけておいたから死にはしないだろう。