娘はポケモンに対して故意に負傷させどの程度まで耐えられるかの耐久実験
(要するに痛めつけ、殺すと言うことだ。)の方面にすばらしい伸びを見せているため、
その方面に進ませることにした。

研究棟はそんなに離れていない上、家(研究所から提供された住まい)では共に過ごせるため
寂しいなどとは言っていられない。

…とは言え、この喪失感は拭いきれない。忘れるため早速実験を開始する。

実験用に運び込んだ3体のバネブー達は先ほどまでのんびりとそこらじゅうを跳ね回っていたが
私のいらいらに気づいたのか小刻みに跳びながら私の顔を心配そうに見上げていた。

目の前で揺れるピンク色の丸い真珠を見つめてふとこれは娘が喜ぶのではないかと思い立った。

早速大量にバネブーを運び込み、片っ端から頭に乗せた真珠を剥ぎ取る。
あれほど跳ね回っても落ちないのは頭にしっかりと張り付いていたためだとその時に知った。

意外に重いためしっかり抱えるのだが跳ね回っていないと死ぬと言うのは伊達ではなく
抱えても足()はみよんみよんと宙を蹴っている。

最初は邪魔になる動き回る足を切り取ってから行なおうとナイフを根元にあてがい、
皮膚に少しずつ切れ目を入れていったのだが、その間も動いているため小さな傷もすぐに広がってしまった。
自分で広げた傷に対して苦悶の声は上げるのだが足は止まらない。

みちみちと音を立てながら皮膚が切れ、筋肉が切れるとようやく足は止まった。
あっという間に骨まで到達すると流れ出す血と白い骨と黒い体毛のコントラストはすばらしいものであったが、
死んでしまったため実験に使えないゴミと化してしまった。

とりあえず頭の真珠をはずそうと手をかけるが、
意外としっかりと張り付いていて無理やり剥ぎ取ると頭皮がしっかりとくっついてくる。
地肌も黒く内側はピンク色だった。
剥ぎ取った部分からは白っぽいピンク色をした脂肪が溢れる血の隙間から見え隠れしていた。

その後は実験に使うため、殺さないように剥がすことにした。と言っても脇に抱えて無理やり取るだけなのだが。

たまに特性が「あついしぼう」ではないものが混ざっていたため頭蓋骨が見えるほど深く剥がれてしまったり、
剥ぐのに時間が掛かって耳が千切れてしまうこともあったりしたが
白目をむいて気絶する程度だと思われるので問題はあまり無いだろう。…たぶん

剥いだ部分には焼きごてを押し当てて止血しておいたため出血多量で死ぬことだけは免れた。
じゅぅっという音と気絶から目覚めたバネブーがあげる醜い叫び声をバックに
焼き豚のいい匂いが辺りに充満した。

終わる頃にはショック状態で死んでしまったものも少しいたが、
大半は気絶して転がっているか震えて出来るだけ私から遠ざかっているかのどちらかだった。
案外丈夫だったらしい。

途中からは娘に真珠をプレゼントするためと言うよりは
私のいらいらを取り除くために行なっていたようなのだが…一石二鳥だな。

死体と真珠を別室に運び去った後、怯えたバネブーたちを尻目に餌を
“バネブーの数より明らかに少なく”与えた。

ここに運び込んだバネブーは二日間ほど水のみで過ごさせていたため
あっという間に餌に群がり、争奪戦が開始された。

先ほどまでの怯えようは餌が出た途端に影を潜め、可愛らしい顔立ちに似合わぬぎらぎらとした目を向けていた。

本来、今回の実験は3体のバネブーで行なおうといていたため多すぎたのだ。
飛び込むバネブー達の輪から弾きだされた2体を麻酔が充満したケースの中に隔離し、その他は放置し眺めていた。

最初に駆けつけた1体が口をつけようとした途端に後から追ってきた他のバネブーが足に噛み付き
無理やり遠くに投げ捨てる。その間に別のバネブーが餌の所にたどり着いたと思うと
後ろから高くジャンプしたバネブーに先ほどの傷を踏みつけられて激痛にうめいて転げまわる。

他の場所では比較的小さいバネブーが大きめのバネブーに足をかまれて固定され、痙攣しながら死んでいった。
その親と思われるものが涙を流しながら大きめなバネブーに噛み付き肉を抉り取る。
溢れ出る血など気にも留めず足の先を目に付き刺し、コルクを抜くようにぐりぐりと抉る。

まさに地獄絵図だ。…残ったものはさらにすごい地獄を体験することになるが…

残った数体の中から一番元気なものを選び、その他は放っておいても死に絶えそうなため、
死体と共に別室に運んでおいた。

念のため生きているもの達は別にしたが、余っていた小さなケージの中にぎゅうぎゅうに押し込んだため
一番下のものは押しつぶされ、頭の傷から脳をはみ出させ、目玉をとび出させ、
こんなに長かったのかと思うほどの舌をケージの隙間から垂らしたスプラッターな姿の死体と化している。

中で足だけは動き回っているため、死体直前のポケモンを詰めたとは思えないような、
妙にがたがたと動くケージとなってしまった。

さて、ようやく本番に取り掛かれる。

先ほどの喧騒で傷ついているバネブーは死なない程度の量に調節済みの傷薬のプールに放り込んでおいて
(
相当しみるらしくどこからそんな元気が出たのかと思うほどの叫び声をあげたが。)餌の準備をする。

麻酔は抜いたがまだぐっすりと眠り込んでいる2体の間にガラス板を挟み
1方(真珠を剥ぎ取る際に片耳が取れたのでミミナシ)には餌を、
もう1(頭蓋が見えているのでシロ)には何もせず目覚めるまで放置しておいた。
(ちなみに薬で眠らされている間も足が動き続けているのには驚かされた。)

プールに放り込んだバネブー(先ほどの戦闘で片目を潰されているためカタメ)
タオルで包み荒々しく拭くと、傷の部分に触れる度に小さな叫び声を上げていたが、
ケースに移し多めに用意した餌を与えた途端にご機嫌になって口をつけた。もう回復したらしい。

ちなみに、今回餌に混ぜた毒物はトリカブトをすり身にし、消化吸収されやすくしたものだ。
ジエステルアルカロイド
(アコニチン、メスアコニチン)が含まれ、
舌に乗せるとぴりぴりとするものが特に毒性が高いとされているが、
死と隣り合わせの確かめ方のため今ではほとんどやるものはいない。

ミミナシに与えた餌には多量の、カタメに与えた餌にはごく微量のトリカブトが入っている。

カタメが食べ終える頃にようやく目覚めたミミナシとシロは
自分が置かれた立場が良く分からないようではあるが、ミミナシはすぐに餌に飛びつき、
シロはそれを見て怒り飛び跳ねていた。

ミミナシは幸福そうに食べ終えたときになってようやく
口の辺りを中心に全身が燃えるような感覚に包まれていることに気づいたらしい。
涎がだらしなく流れ、止めたくても止められない。
今まで食べていたものとまったく同じものを食べただけなのにと
戸惑っている感じだ。(口唇や皮膚の灼熱感、流涎)

苦しげに体をよじると先ほど食べたものを吐き出し、ケースの床を汚していく。
見たところ混ぜ込んだトリカブトはすでに十分な量が吸収されたようなので吐き出されても問題は無い。
腹や喉()をびくびくと痙攣させては吐き出している。
トリカブトはすでに吸収されているとは言え念のため吐瀉物に顔を押し付けもう一度飲みこませる。
嚥下しては吐き出すことを何度も何度も繰り返させたため、胃酸で歯はぼろぼろになってしまった。(嘔吐)

足の動かし方というか跳ね方がおかしくなり、
一つのトランポリンの上で数人で跳ねたときのように高低がまちまちになり方向も定まらない。
壁にごつごつと頭をぶつけ、先ほどの傷からは体液を噴出させ、
新しい傷からは血をだらだらと流していた。(歩行困難)

呼吸も荒くぜぇぜぇと苦しそうな息をし、吐瀉物の上に倒れてしまった。
足は痙攣したようにしか動かなくなってしまっていた。
吐瀉物に混ざった胃酸のために体の所々が焼け爛れたようになっているが
そんなことはすでに気にならなくなっているのだろう。(呼吸困難)

遂に呼吸が出来なくなったようで苦しそうに体を震わせている。
見えない手に鼻と口を押さえられているかのようだ。かはっと空気を吐き出して息絶えた。(呼吸中枢の麻痺)

シロはそれを見て怯えると同時に餌を食べなくて良かったとほっとため息をつき、
カタメは自分の体はどうなってしまうのかと不安そうにしていた。

ミミナシの死体から離れようとケースの隅で震えているシロを取り出すと、
小さな腕に注射針を差込みトリカブトから抽出した毒液を直接血管の中に流し込んだ。

注射器を見せるとミミナシのようにならないための薬を注射してくれるのかと勘違いしたらしく、
大人しく腕を出したのには笑みをこらえるのに必死になってしまった。

ケースに戻してすぐに効果は現れた。

涎が止まらずミミナシと同じようになってしまったことに戸惑い、怒り、私の方を睨みつけている。
笑顔で見返してやったら悔しそうに涙と涎を流していた。(流涎)

全身を震わせているのは怒りのためだけではないだろう。私を見る目も怒りから怯えへと変わっている。
近くで見るとぴくぴくと細かく痙攣しているのが分かるだろう。(全身の筋の痙攣)

感覚が拡大しているようで小さな音や小さな動きでもすぐに反応してしまっている。
養殖されたものなので野性の本能ではなく毒によって得られた能力と言うことは
分かっているのであろうか?(知覚過敏)
激しい腹痛に体をよじるようにして耐えているがそんなことで耐えられるほどの痛みではない。
転げまわってもこらえきれない激しい痛みに顔をゆがめている。(疝痛)

尿は垂れ流しになり、終えたと思うとまた排泄が始まる。
大した水分は取らせていないので体液が排泄されているのだろう。
望んでいない排泄は苦しいものであろう。(頻尿)


目や鼻には所々血液が滞留してしまっている所があり、心臓の動きが弱まっていることが分かった。
貧血も起こしているようでふらふらしている。(粘膜の鬱血、貧血)


呼吸が苦しくなってきたようで苦しそうな息をしている。ミミナシのときから見ても死が近いことが分かった。
シロもそれに気づいているのかどうか…苦痛から逃れられるのだから喜んでいるのかもしれない。(呼吸困難)

遂に足の筋肉が収縮したまま固まってしまい、痙攣の後、息を引き取った。(運動の麻痺)


死体を片付けた後、カタメの方を見ると次は自分かと身構えたが、
すでに餌の中に混ぜてあるので放っておいた。カタメは拍子抜けしたようだが
次に出した餌には警戒して手を出さなかった。
次の日には平らげてあった所を見ると空腹には勝てなかったらしい。
私がカタメにのみ何もしなかったことに安心したのか出された食べ物は残さず食べることにしたらしい。
もちろん着実にトリカブトの毒が体を蝕んでいるのだが。
何もせずに観察するのみではつまらないので娘の遊び相手になってもらうことにした。
娘には大切な実験体だと伝えてあるので大丈夫だろう。

娘は部屋に入ると同時にバネブーのほうに駆けつけた。ガラスケースに顔をくっつけて覗き込んでいる。
バネブーも私以外の人間を見るのは久しいためか同じように顔をくっつけている。
傍から見るとほほえましい光景だが娘が後ろ手に持っているナイフが場違いに鈍い光を放っていた。

早速バネブーの元に行くとナイフを隠しながら近づき、バネブーが寄ってきたところを一閃した。
娘も医学には精通しているので浅く内臓を傷つけないように切り裂いてあった。

バネブーは一瞬きょとんとした後、腹から臓物が溢れそうになっていることに気づき慌てて押さえた。
足の動きも最小限にし、血が流れないよう一生懸命押さえているが、
顔からは見る見るうちに血の気が引いていく。

ふさがりかけていた頭の傷をナイフで軽く抉られて固まっていた血が溢れ出す。
怪我をしたところにはすぐに傷薬を振り掛けるのでふさがるが、痛みは残り、精神的にも追い詰められる。
取り出したダーツの矢で残った目を貫いた所でやめさせた。
ダーツの矢をそっと引くと、ぶちぶちと言う音と共に千切り取られた筋肉がついた眼球が取り出された。
視神経がついたままだったのでずるずると紐のようなものがついてきたが
あまり引っ張ると命にかかわるのでナイフで切って眼孔に戻しておいた。
眼孔からは血と体液が涙のように流れ出していた。

ダーツの矢の先には返しがついていて簡単には抜けなくなっていたのだ。
それを知らずに引っ張ったため眼球がついてきてしまったらしい。
とりあえず傷薬を眼孔に注ぎ込んでおき、腹は裁縫用の糸と針で縫いつけておいたから死にはしないだろう。

両目を失ってしまったカタメにはそれまで通り餌を与え続けた。
鼻先につきつけてやるともぐもぐと食べるのだ。
あれだけ痛めつけられ、両目を失っても生きることだけには執着している。
すさまじい生への執着には感服する。

十数日後、カタメ(すでに両目が無いが便宜上こう呼ばせてもらう)にもようやく効いてきたみたいだ。

耳は両方とも切り取られ片方はすっぱりと、もう片方は千切り取られた無残な傷跡を覗かせている。
いくら脂肪の層が厚いといっても丸ごととってしまえば関係ない。骨も見え隠れしている。
止血はしてあるものの痛みは続いているのだろう。時折体をぴくつかせる。

内臓も大して残っておらず、目は見えないにしても
体がだんだんと軽くなっていくことくらいは分かったことだろう。
生きることに最低限必要な程度しか残さなかった。小腸など当初の8分の1ほどしか残っていないほどだ。

体中がぼろぼろになっており、私から見ても死んだほうがましではないかと思えるほどだ。
しかし、しぶとく生きている。こちらとしては好都合だが。

そんな状態のカタメに効いてきたのだから神も残酷なことをするものだと思う。

内臓が抜かれたと言うことだけではなくありえないくらいがりがりにやせ細っている。
肋骨(切除してしまったため4本しかない)が透けて見えるほどだ。(体重減少)

時折固形物の混じった血を吐くので、調べてみると固形物は消化管の上皮が剥離したものだと分かった。
炎症を起こし皮が剥がれたのだった。大腸に水を注ぎ込んで排出させ得られた軟便からも
同様のものが採取された。うめき声も上げられなくなるほど衰弱はしていたが足が動いていたので
かろうじて命を繋ぎとめていることが分かった。(消化管のカタール)

脈も安定しなくなり、時折止まりかけることもあるようになった。
慌ててマッサージしてやると荒く縫われた腹から変なものをはみ出させながら生き返った。(心機能障害)

腕には水ぶくれのようなものが出来、押すとへこんだ。
その1つを切り裂いてみると、どろっとした体液があふれ出てきて腕を伝った。(四肢の冷性浮腫)

血液を採取して病原菌と戦わせて見たところ赤血球が非常に壊れやすくなっていることが判明した。
そのためヘモバルトネラ(猫伝染性貧血)と言う病原菌を伝染させてみることにした。
猫でも抵抗力が弱まったときにしか発症しない。それをバネブー用に改良(改悪?)したものを感染させてみた。
ちなみに強力にはしていない…少ししか。

感染させるとすぐに高熱を出し、貧血を起こした。
血液を採取してみたところほとんどの赤血球が溶血を起こしていた。
ぼろぼろになった体はヘモバルトネラが引き起こす症状に耐え切れずこの世を去った。(赤血球抵抗性の低下)

一部始終を娘と共にバネブーの丸焼きを齧りながら見ていた私は、
研究結果を手早くまとめてDr.Oの元に運んでいくことにした。脂ののった美味しい焼肉を手土産に。